絆〜SIN〜第九話『あれから1年…』




キラの決意はシンのこれからを決め、シンと退役の準備をはじめた。
最初はシンは驚愕したが、キラは半端に自分と恋人となる事を考えていない。
(やっぱり俺にとって希望だね。キラさんは…。)


早速健康診断など科学的見地から、シンは軍人として生きていくのに身体的に過酷だと診断され、
軍を退く手筈を整えた。
それとは別にイザークが上層部と掛け合い、シンが軍事機密を漏らさないかの監視役として、
実績のないキラをお目付として、シンの傍にいる事を命じた。
僅かにでもイザークは、二人に何かあった時に動ける口実を残してくれた。
(イザークには本当に世話になりっぱなしだ。)
キラとアスランは彼を巻き込んだ事で、今後頭が上がらなくなる。
その最中…


「シン…俺は…。」
ずっとシンと気まずかったヨウランが、シンがここを去ると聞いて駆け付けた。
全く想定していなかった事でシンも動揺した。
だが避けては通れない問題だった。
「謝らなくて良いよ。俺も恋をして分かったから。難しいよな。これって。」
アスランの時に感じていたもどかしい気持ちが、きっとあの時のヨウランだったのかもしれない。
でもキラと恋人同士になって、今は幸せが満たされている。
「ごめん。俺なんか好きになった為に、苦しめてしまって。」
「シン…。」
(こんなに良い奴のヨウランだけを見てくれる、そんな人が本当に早く現れて欲しい。)
祈るようにシンはヨウランとしっかり向き合った。
「シン。お前が好きなやつと幸せになってくれよ。それじゃないと許さないからな。」
初恋のシンと恋仲になりたかった。でも自分にはシンを幸福に出来ない。
震えながら気丈にしているヨウランにシンは
「分かったよ。ヨウラン。時々連絡を取り合おう。親友として…。」
自分の携帯のアドレスを伝え、二人は前と同じではないが、少し安心し合った。


そしてキラと一緒にZAFTを退役してから、一年が経ていた。


残りの人生は恋人キラと共にオーブで過ごしていた。
キラの姉のカガリに住居を提供してもらって、今は洋風造りの2階建てに二人暮らし。
当時キラは世話になっていたラクスにも、シンとの関係を隠さず打ち明けた。
しかし彼女は最初は受け入れられず、きっと互いが不幸になると応えた。
唯でさえたくさんの戦死者を悼んでは、苦悩し自分を追い詰めていたキラ。
そんな彼を傍で見ていた彼女は、死がそこまで迫っているシンを受け止められる訳がないと、
本気で心配していた。
しかしすでにレイやアスランに託されたシンの事と、自身の愛の為に引き返さず、
彼女の気持ちを知りつつも、シンとの同居をキラは切り出す。


そしてレイはギルバードとどうにか和解した。
ステラと育ての兄二人とレイ4人でZAFTで暮らしている。
イザークがステラの親代わりで、ディアッカがスティングとアウルの親代わりで複雑な関係だった。
とはいえ…ステラは実の兄より、ルナマリアをかなり慕って、ルナマリアの実妹のメイリンが近付くと、
牽制している始末。ルナマリアはやれやれと思っているが、二人の妹を分け隔てなく愛していた。
気苦労耐えないルナマリアの愚痴を聞くのは、レイの役割だったらしく、
レイはシンに手紙で自身の近況を伝えるついでに、ルナマリアの事も教えてくれた。
どうやったら彼女の様に、ステラの興味関心をレイに向けさせられるのか模索しているらしい。
そんな目まぐるしい事があって、それを思い出しながらシンは思い出し笑いをする。


「あの時の君は優しかったよ。アスランをわざと遠ざけて、これから訪れる哀しみから、
すくなくとも守ってあげたんだから。」
波打ち際の砂浜で、腰掛けて二人は水平線に沈む夕日を眺めていた。
一方…シンへの未練で苦しんでいたアスランは、ギルバードから一人の少女を託される。
名前は…『マユ=アスカ』というシンの実は生き別れの養妹。
本当はシンと再会させてやりたかったと、ギルバードはシンに伝えたが、
シンはもうマユを自分達の都合で苦しめたくないと、このままでいいと運命に委ねた。
写真でみた成長した彼女は懐かしさもあったが、もう自分の知らない女性だった。
宇宙でアスランに引き合わされ彼の近しい部下になったと、風の便りで聞いた。
「シン…マユは優秀な娘だよ。やっぱり遠縁っと言うだけあって、お前にどこか似ている。」
二人で任務にあたった後には一緒に過ごす時間も多いらしい…
彼女の口から零れるシン…兄への敬愛の想い
そして同時に溢れるアスランのシンへの嘗ての恋情。
共通する点も多いので、正直救われていると…


しかしマユはアスランに惹かれず、どうやらヨウランに片思いしているらしい。
話し上手でそれでいて誠実だからだとマユから告白されたと、シンにヨウランから近況報告が。
急な展開で正直ヨウランとしても動揺しているが、シンにどこか似ている容姿だけじゃなく、
意外にもおっとりしていて芯が強い少女で、ヨウランもまんざらじゃないみたいだった。
(もしかして…ヨウランが俺に対してお兄ちゃんって呼ぶ日がきたりして。)
ちょっぴり複雑な感情だった。


自分達を見送ってくれたみんなの幸せを、シンとキラは地上でいつまでも願っている。
「俺は…アスランとは道が違う。アスランは身をもって俺に選択肢を与えてくれたんだ。
今でもちゃんとアスランは特別だよ。導き手としてだけど。でも今、キラさんが一番好きだ。これは変わらない。
逆に俺のために迷惑かけてごめん…。」
「何を言っているんだ。僕が先に君に惚れたんだ。かなり回り道したけど…。」
そっとシンの身体を引き寄せて、頬にキスをする。
キラの不意打ちで下を向いてシンは赤面し、動揺した。


「そう言えばキラさんと出会ったのもオーブの黄昏時だったね。」
「あの時はこんなに惹かれるなんて想像もしていなかった。」
「俺もだよ。」
キラは一日でも早く、シンを本当の意味で救ってやりたいと思っている。
徐々にシンの弱っている体内の細胞を活性化させる方法が具体化してきている。
もうあと少しで何とかその基盤に着手出来る。
シンはキラの隣で夜…魘されて泣いている事も度々ある。
それはギルバードとの行為の後遺症(トラウマ)とは違い、確実に死に怯えての事だった。
キラの前では健気に明るく振る舞っているけど本当は…


「シン…僕達結婚しようか?」
「…えっ…??」
「オーブはその辺りのものは自由らしい。なんならカガリに聞こうかな?」
「どうしてそんな事…。」
「僕は君を愛している。もし君がいつか回復して、その後もしかしてZAFTに呼び戻されるかもしれない。
その時恋人同士だけだと、離ればなれになるかもしれない。君は僕が言うのもなんだけど、
他の者に狙われやすい。気が気じゃないんだ。」
「もう解決したよ。いっぱいみんなを傷付けたけど…。」
「だから確実に僕だけのものにしたいんだ。ダメかい??」


キラはシンと家族になろうとしている。
複雑で歪な自分の生まれを知って、シンは議長の複製品なのだと思い知らされ、
足元が壊れたけど、キラはこれからシンと共に生きてくれる。
どんなにかそれが嬉しい事か…
「嬉しいけど…それじゃキラさんが…。」
「僕もスーパーコーディネータとして改良された君とは違う意味で歪な命なんだよ。
僕も後から知らされ苦しんだ。でもシンが一緒に居てくれたら僕も乗り越えられる。
それに君を独占したい。全てを…。」
シンの手を握りしめて真剣に言ってきたキラに
「どこまでも一緒に居て。俺はキラさんのものだから…。」
目頭があつくなり涙が出そうなシンをキラは引き寄せて、強く強く抱き締めた。


「僕も君だけのものだ。だから結ばれよう。何もかも…。」