絆〜SIN〜第七話『さよならの季節』




キラの想いを受け入れたと、アスランとレイに言い切ったシンに…


「本当にいいのかい?君はレイを深く思って、アスランは初恋だろう?」
キラは予想外のシンの答えに動揺が隠せない。
正直嬉しい気持ちが殆どだが、単純に手放しで喜べるほど無邪気でも無い。
「嫌かもしれないけど俺の最期まで傍に居て欲しい。」
本当はひっそりと存在が消えていければと、シンは悲観していたが、
やっぱりどこか淋しい気持ちは否定出来ない。
「はじめてキラさんに抱かれた時、心底生きたい…とそして忘れないで欲しいと思ったんだ。
あんなに諦めていたこれからに、光が差し込んだんだ。」


そんなシンをキラは正面から見据えて
「戦火にあって気もふれず生きて居られる君を…シン…僕は君に辛く当った。
そしてそれを日増しに深く後悔した。そこへもって拉致事件だ。はじめて僕の前で君が嘆き悲しんだ。
その一件が同情とか庇護欲などなく、君を純粋に守りたいと思い、同時に惹かれていた自分の思いにも気が付いた。
ごめん。こんな浅ましい僕が君の人生をどうこう出来る立場じゃないのに…。
でももう一度言うよ。好きなんだ。本気で愛している。」
真っ直ぐに見詰める紫の瞳。
シンは嬉しそうに泣きながら頷く。
ちゃんとシンもキラが好きなんだと、レイはシンの安心した表情をみて安堵した。
本当は自分がシンを幸せにしてやりたかった。
今でもそう思っている。
もっと早く愚かな自分に気が付いていれば…
しかしこれ以上シンの心を苦しめては駄目だと、レイは奪ってまでどうこうすることは選ばなかった。
告白するチャンスを永久に失った瞬間でもあり、これが在る意味、贖罪なのかもしれない。


「シン…。キラ=ヤマトと一緒に幸せになれよ。俺は早くから投薬治療していたからお前より長く生きられる。
でもお前はそうで無かったから多分俺より短命だと思う。しかし可能性はある。
希有なコーディネーターでもある彼なら、もしかしてシンの身体の回復方法までもを導きだすかもしれない。
愛の力で…と言う奇跡で…。」
レイはそれにも賭けたかった。
優れた人類のコーディネーターの中でも特別な存在のキラ…
希望はまだ残されている。
こんなに愛しているシンをただ看取って終わるような男ではない筈だ。
もし資金などで困難を極めたら、工面してもらえるようにレイがギルバードに掛け合う。
どんな手を使ってでもシンを助けたい。
(そうだな。ギルバードともきちんと話し合おう。逃げずにちゃんと…。)
正直牢屋に似た場所に入れられた事は、トラウマになりそうだったが、それでも恩を感じている。
本当は当たり前の様に保護されてもいいのは、ギルバードの分身だったシンの方…
自分は彼の温情で救われただけで、それは当然受けるべき施しではなかった。
(何時までも気が狂った俺を見ていて、本当に俺が苦しめていたんだ。
次第にもう一人の自分(シン)を甚振る位に、彼も追い詰められていたんだ。)
色々とこれまでの自身を振り返り、ギルバードの自分への秘められた愛を知る。
そう思ったら、急にギルバードに篤い思いを感じて会いたくなってきた。


「俺も…もう一度ギルバードとやり直すよ。」
「レイ…。あの人も待っていたよ。相手を間違えて俺にお前を重ねる位に好きって想いが溢れていた。
だからもう一人の俺にはお前が必要なんだよ。」
常にレイを一番に考えて行動していた彼…
彼とてレイをこんな形で傷つけたくなかった筈だ。
献身的に守り、その愛にすら蓋をして、只管(ひたすら)レイの笑顔を待っていただろう。
作り笑いや、暗い笑いでは無く、心底幸福を感じたレイの微笑みを…
その為にシンと言う、レイと境遇が同じの運命の兄弟を差し出して、その変化をずっと…


「シン…お前にとってキラ=ヤマトがそういった存在だったように、
俺はギルバードと優しい関係になれたらいいな。」
もっと素直に互いがなって、男同士の恋愛に昇華するのか分からない。
でもそれを抜きにしても、ギルバードに謝りたいのは本音だ。
それから何もかもがもう一度動き始める。
「なれるよ。きっと。だってレイは俺の自慢の親友だから…。」
ぎゅっとレイの手を握って力説した。
その手に零れるレイの涙…
しかしそこに哀しみでは無く、何かを乗り越えた笑顔で泣いていた。
「遠回りだった。やっとこころからお前と分かり合えた。だからこれくらいは最後に赦してくれ。」
そっとシンの頬にキスをしたレイ。
不意打ちにびっくりしたシンは、キラの反応を気にしたが、レイの恋の終わりを受け止めて、
キラは逆にレイにシンのこれからの事を任されたと、微笑んでいた。
あっという間に面会時間が終わって、レイを促したアスランは扉の鍵を開けて、
レイは廊下に待機していたディアッカに連れらて、独房に戻って行った。


そして部屋にはシンとキラとアスランの3人となった。
「シン…俺は全く認めないから。お前のその決断は…」
アスランはシンを厳しい瞳で見詰めて、真っ向から否定した。
「アスランは勝手だよ。」
「キラ…。」
「僕の時もそうだった。君は本当に素敵で眩しい存在だよ。でもだからこそ傲慢でもあるんだ。
あの時僕達は両想いだったのに、僕が居ると分かっているヘリオポリスをどうして不幸にしたんだ?
僕が此処に来る前に、シンがちゃんと君を好きだと思って居た時に、何故シンと恋人同士にならなかったんだ?
僕やシンが何時までも待っていると思っているの?君やレイはシンと結ばれるチャンスはいくらでもあった。
レイがそれを悟ったのに君は何で分からないんだ?」
恋人のシンを責めるなと、威嚇するようにキラは代弁した。
キラもアスランを忘れられない。
でも何もかも手遅れで、それ以上にやはりシンを愛し思っている。


シンは勇気を貰ってアスランを見ながら…
「本当は今でも貴方が好きだよ。アスランを嫌いにはなれない。
でもキラさんがそれ以上に好きになったんだ。初めは苦手だった。俺馬鹿じゃないから分かっているよ。
キラさんが俺に冷たく当っていた事も。でもだから知りたいと思った。キラさんの事を…
きっと先に気になって好きになったのは俺かもしれない。自覚していなかっただけで。」
だからアスランからの告白のあと、保留にしていたのはこの気持ちの正体を掴みたかっただけ。
「アスラン。身勝手かもしれないけどどうか見守ってくれないかい…」
「キラ…そしてシン…。俺はお前達が本当に好きだった。中途半端にしたつもりはなかった。
でもザラの名前を棄てられない。だからどこかお前達を不幸にしてしまう。甘えていた。
何処まで行っても父親の陰を負って生きている俺は、お前達とは共に居られない。
俺はそれを分かっていたのに…」
逃れられない重責に苦しむアスランを、シンは痛みが激しい身体を無理に動かし、
車椅子から立ち上がり、アスランの胸に飛び込み
「俺はこの胸のぬくもりを忘れない。アスランから貰ったものは全て覚えている。
いっぱい心配させてごめんね。いっぱい我儘を言ってごめんね。こんなにも好きになってごめんね。」
アスランは決してシンが自分を嫌いだからではなく。本気で愛しているから身を引いたのだと悟った。
未来…アスランは死期が迫っているシンを受け止められない。
シンもアスランの足枷となる事は望んでいない。
だからといってキラを選んだ訳でもない。
キラのシンに向ける直向きさがきっとシンの生きる希望となる。


「キラ…今晩。もう一度シンを抱かせてくれ。無茶はしない。ちゃんと覚えておきたいんだ。
シンの隅々までを。もう恋人同士になったお前達には迷惑だろうが…。」
キラの前では言えない互いの想いを吐露したいと言っていた。
シンはもうキラだけのもので、決してそれは変わらない。
「シン。アスランとこれで最後にするんだ。それを守れるよね?」
青褪め肩で息をしているシンは
「うん。だって俺の好きなのはもうキラさんだ。ちゃんとお別れをしてくる。」
初恋を終わらせて、キラの腕に戻ってくると強く瞳が訴えていた。


「君を信じる。だから行っておいで。」
キラはそんなシンとアスランを見て、同時に自身のアスランとの初恋も終わったのだと分かった。
二人が共に過ごした時間もいつかは懐かしく思えるのだろうか?
(アスラン。ありがとう。そしてさようなら…)