絆〜SIN〜第二話〜『真実の愛』




窮地をルナマリアに救われたシン…

彼女によりシンとステラはZAFTの本部へ連れ戻された。


「シン!?無事だったんだな…。」
シンが拉致されていて未遂に終わった事実を知って、急いでシンの部屋に二人の男達が駆け込んできた。
たった目を放した刹那の出来事で、さっきまでシンを抱いていたキラは特に後悔した。
まったく可能性が無かった訳でない。
現に監禁されたばかりで、何も解決して戻って来たものでもない。
アスランも今後の全ての予定をキャンセルして、ルナマリアに事情を聴いた。
実際にルナマリアも全てを把握してはいないが、実家に帰ってもシンの体調を、
ヴィーノに報告させていたので、そんなシンが夜中に外に居る訳が無いと、
見間違いかもと思いながらも、確認の為話し掛けたと…
正にルナマリアの自称シンの姉がなせる、偶然の大活躍に頭が上がらないと、アスランは感嘆した。
再び床に就いたシンを心配そうに、アスランとキラは覗きこむ。
急な外の外気のより、少し顔色が悪くなっているシン。
まだまだ安静が必要だったのに、悪化したと物語っている。
熱も出てきて苦んでいるので、医療班を呼んで二人は看護にあたっていた。


「シンはお二人に任せて…ところで貴方は一体本当に何者?」
ルナマリアはシンを連れ去ろうとした怪しい少女を、マンツーマンで問い詰めていた。
「貴方は…シンをステラから隠す、人間界のお姫様なの?」
「???何を言っているの?」
「ステラは人魚姫。シンは王子様なの。」
「絵本のお話?例え話はいいからちゃんと話してよ。」
一向に話が咬み合わないステラの発言に、ルナマリアは痺れを切らしていた。
「優しいの。シンが好きなの。だからシンはステラと生きるの。」
「何勝手言ってるの!!ステラだっけ。貴方がやった事は立派に誘拐…犯罪なのよ。」
好きだから何してもいいと言っているにしか聞こえないステラに、
ルナマリアはしっかりとお説教していた。


「でも…シンは。」
「あのね。愛のキューピッドのルナマリアさんは、そりゃあお節介な位に恋愛には協力するわよ。
でもね。人にはけっしてしちゃいけないことがあるの。それは自分の感情だけで突っ走らない事。
好きな相手なら尚更よ。相手をちゃんとみて向き合って、それから自分が何をすべきか考えるの。
これは時間がかかるのよ。絶対にずるしちゃいけないの。」
そのルナマリアの言葉が耳に入り、アスランもキラも自分のシンに対する有り様を深く反省した。
シンが自分に何を求めているのか、焦らずに待つ事…
「本当だね。僕はやっぱり間違っていたのかもしれない。」
シンを愛しているのなら、彼ともっと話してお互いを知る事から始めなければならない。
相互理解が必要だと言うルナマリアの指摘は御尤もだった。
「シンは特にいろいろ面倒臭い性格なの。何事もストレートで内面はデリケート。
周囲は本当にはらはらしっぱなし。どんだけ振り回されるか…
少なくともシンは見知らぬ女の子にだっこされる訳が無い。
顔見知り何でしょう。貴方達はきっと。本当に何があったの?」
シンをずっと見ていたから、ルナマリアはちゃんと分かっていた。
本当に他人だったらシンのあの戸惑った表情はない。
互いの首から提げられている貝殻のペンダント。
まるで恋人同士のペアリングみたいだった。
(シン…とこの子の関係にちょっとだけ苦い思いがあるような…。
まさか私ってばシンの事が…??)
「あのね。議長さんがステラのレイお兄ちゃんと会えるから、自分の分身を連れてきてと。
でもねステラ…そんな事よりもシンと会えた事が嬉しかったの。」
舌足らずの言葉足らずだったが、ステラから貴重な情報が得られた。

「レイがこの子の兄で、今議長の元に居るんだ。でも…アスラン。」

「ああ…キラ。しかしシンが自分の分身ってどういう意味だ?」


いったい何時までこんな状態が続くのだろう…
無機質で光すら射さない地下で、レイは心身とも追い詰められていた。
自分の所為で日常の幸せを根こそぎ奪われたシン。
弱くて卑屈だった己のこころが招いた。
償いきれない。どうしたってシンが自分を赦さないだろう。
「シン…でも俺はお前を愛しているんだ。こんな気持ちは初めてなんだ。
もどかしくって熱くて…。」
何度も薬で意識を奪っては戯れた。
シンの事を思い通りにならなければ苛んだ。
まるで人形遊びでもしているかのように…
「それでも衝撃だったのは、お前からアスランだけは追い出せなかった事だ。」
シンが誰を愛しているのかわかっている。
本人は決して語らないが、その相手は自分ではある訳無く、
アスランの傍に居たいのだと、散々に思い知らされた。
羨むほどにアスランはシンにとって、特別でシンにとって世界を与えてくれた者だった。
屈折した愛情などアスランは無いのだろう。
だからシンが自然に惹かれて、好意を抱いたのだろう。
心細く苦しんでいたシンを、心底偽りなく支えてやりたいその一心で。
アスランよりレイはシンと過ごした時間があっても、決して埋まらない互いの溝がある。
実らない片思いをレイはシンにしている。狂おしい位に…
「お前にどんな言葉を投げかけられても、会いたい…俺を見捨てないでくれ…」
震える自身の身体を抱き締めながら、レイはシンに思いを馳せては泣いていた。


それを見ていた監守の二人の青年は居た堪れなくなって…
「スティング…ステラから連絡あった。あいつ失敗したんだ。」
通信機で連絡を取り合って、もう一人に話しかける。
「牢屋みたいなこの部屋の中の男は、あいつの兄だってアウル。」
実の妹のように可愛がっているステラを、溺愛している二人。
そもそも誰かを奪取するのを条件に、ステラの身の上を利用された感は否めない。
それを察して潜り込んだ屋敷のガードマンをなぎ倒して、摩り替って動向を見守っていた。
「恩がある議長さんには悪いが、ステラの為にこいつを連れ出そう。」
「賛成〜☆育ての兄としてはステラの喜ぶ顔が見たいし…。」


生まれの兄との再会は、ステラの幸福。
意外な二人の機転で、レイは二人に手を牽かれるように脱出した。

アスランはキラに医療班からのデーターを見せた。
そこに書かれている内容に、アスランは驚愕したからだった。
「まさか…そんな…。」
ステラが言っていた分身っと言う意味を聞き逃さなかったアスランは、
ギルバードの医療バンクの細胞と、シンの細胞を検証してその遺伝子が同一のものと発覚した。
即ちシンはギルバードの細胞で出来た複製人間(クローン)だ。
「兄弟かもしれない。例えば遠縁とか…」
「いや違う。こんなに一致する配列の遺伝子は、最早それでなければ説明がつかない。
シンの衰弱は何も監禁だけが原因じゃなくって、元々基礎が無い遺伝子障害で行われた、
弊害とも言える。このままだともって10年。早ければ数年の命だ。」


唯でさえ遺伝子操作されて生まれるコーディネーター。
その人間の複製とあらば、短命として然るべき。
だからシンはキラに問いかけていたのだ。
『長く生きられないかも…』っと。
弱音を漏らしていたのに、キラはそれの解釈を間違って、シンを追い詰めた。
きっとそんな単純にシンは言ってはいなかった。
どうしようもない自分の運命を呪ったに違いない。
しかもそれまで信じていた人生をまるごと否定されたようなものだ。
「応えられなかったんだ。他人からの告白を…。」
「キラ…お前には悪いとは思う。このまま俺にシンを諦めて委ねてくれないか。」
「アスラン。何勝手な事を…。」
「あいつのそういった部分も含めて、俺は受け入れる覚悟がある。言っただろう。
お前とレイはあいつにしてみたら贖罪にしか感じられないだろう。
俺は初めから本当にあいつと両想いだったのだから…。」
一番シンに誰よりも恋焦がれられ、そしてシンを一番幸せに出来る相手。
それはアスランだけだった。
誰が見てもそう認める。しかし…


「先程…拉致される寸前に僕とシンは本当の意味で肉体関係になったよ。」
それを聞いたアスランは目を見開いて、キラを呆然と見ていた。