絆〜SIN〜第一話〜『月夜の再会』




シンとキラは一糸纏わぬ姿で夜明けを迎えた。


夢でも見ているようなまどろんでいるキラ。
幾度も脳内でシンを抱いて、それで夢精もしていたのに…
現実の腕枕の中でシンが自分と寄り添って眠っている。
理性があり誠実な者なら、弱っているシンに手は出さないのに、キラは歯止めがきかなかった。
随分待たされたからなのか…
「シン…君を漸く抱き締められる。」
今までシンを支配欲や、憎しみにも似た感情で触れていた。
それがいつしか自分の奥底にある、もう忘れて久しい愛情がレイによって刺激され、
シンを自分だけを見て欲しくなって、シンがアスランを慕っている事を知っても止められなかった。


キラは何も男性とSEXするのは初めてでない。アスランと寝た事もあった。
だが生まれて初めて男を抱きたいと思い、抱いてしまった事だけでなく、
キラは自分の下半身の熱が、シンの中で直接放たれたことが恥ずかしかった。
その交情を思い出してキラは赤面する。
流石に複数の男と無理やり肉体関係をもたされたシンは、受け入れる事をよく知っていた。
だから感度も良く、申し分なかったがそれよりキラはゴムをつけ忘れた。
そこまで行為に夢中となって、気が回っていなかった。
それでついシンの中に射精をして、ぬるぬるした感触でシンは動揺した。
「キラさん。俺に感じたの?」
余りにも早く達したので、キラはどんなにシンに欲望があったのかまざまざと思い知らされた。
今もシンの中にキラの楔が突き刺されたままだった。
キラの失態を気にせずにシンは微笑む。
「いま俺の中キラさんでいっぱいだ。」
「シン…ずっとこのままでいたいな…。」
「それは困るよ(笑)」


別荘から帰ってきて、シンが初めてキラに微笑む。
唯一(こいびと)だと認められた訳ではないのに、キラはシンのそんな些細な事が嬉しかった。
すぐ身近なところに幸せはあった。
調子にのってシンをもっと抱きたいと思ったが、キラの携帯がなり仕方なしに中断した。
「そうか…今日は新人カリキュラムの日か。解ったすぐに向かう。」
アスランからの連絡で、大事な用件を思い出す。
前のキスを目撃して、邪魔したからの本当は嫌がらせか?っというタイミングだったので、
「アスラン…勘がいいよ。ますます憎たらしい…。」
ぼやくキラはシンとのSEXの後始末をして衣服を整えた。
軍務にちょっとだけ顔を出さないといけないからと、シンを部屋に一人にした。
かなり後ろ髪をひかれる思いで…



キラに激しく抱かれて、シンはキラの愛を余韻で感じていた。
それはレイやアスランや…ましてや議長とも違う。
きっと一番キラ自身が戸惑っているだろう…激情に近い愛情。
最初は怖かったが次第にそういった事を感じなくなった。
そしてシンがいろいろ疲れたのか寝息を立てていると、
「シン…やっと会えたね。」
そっと耳打ちして、嬉しそうにしている少女が一人。
深紅のZAFTの制服を着用して、その細い腕でシンを抱き起こす。
布団がベッドからすべり落ち、まるでお姫様だっこのような形でシンはその部屋から連れ去られた。
軍隊の施設ゆえにたくさんのセキュリティーが働いていたが、それを掻い潜り瞬く間に外に…
「う…ん。何?」
静かに運ばれていたのだが、シンは急に肌寒くなったのでうっすらと目を覚ます。
そして見上げたそこに、月夜に照らされた少女が…
「君…ステラ?どうして…。」
「ステラ…人魚姫なの。」
笑いかけながらステラはそう言った。
「人魚姫?」
「そう。たった一度出会った人に恋して一生懸命手を伸ばすの。
たくさんの哀しい事があっても、もう一度会いたいから違う幸せのため、
今の幸せを壊すの。」


シンはステラが想像も出来ない位に苦労している事に気が付いていた。
きっと幸せな人並みの生活を送っていない…
(かつての俺とどこか似ている。)
シンもまたステラを忘れられない異性として思っていた。
だからどんな時でも、例え強姦されている最中でも、
彼女からのペンダントは肌身離さず持っていた。
まるでロザリオのように、シンを守ってくれている。
「ステラは泡となって消えないでくれ。絶対に…」
儚い少女でただでさえ現実離れした者だったので、シンは真剣にステラに言った。
触れたら透けていくような、存在感が希薄な彼女…
そんな心配気なシンをステラは
「うん。だってシンが大好きだから居なくなったりしないよ。」
シンの額にキスをして、ステラは常人とは思えない剛腕と速度で有る場所に向かう。
しかしその方角に不吉な予感がシンに走る。


(このまま行くと、あの忌まわしい別荘に近付く。ステラは何処に俺を…)
「ステラ…俺を何処に連れてゆくんだ?」
訊かなくてはならないが、その答えが何故か怖い。
かなり忌々しい経験をしたばかりで、シンはまだ立ち直っていない。
「う〜ん。ステラね。シンにとても会いたいって人に頼まれたの。
そうしたらステラのお兄ちゃんに会えるよって。
事情があって離れ離れになっていたんだよって。
でもね。ステラ…シンと再会できた事が嬉しい。
その人ってシンの家族なんだって。有名な人…ギルバード議長さん。」
途中からシンは表情が自分でも青褪めている事に気付く。
ステラは別に責められない。
彼女の身の上を調べ上げ、取引されたのだと解ったから…。
きっと議長にとって誰でも好かったはずだ。シンを捕える事が出来たら…
しかしよりにもよってそれがステラだった事が、シンはショックであった。


ぎゅっとペンダントを握りしめて…
「い…嫌だ。ステラ…。」
これから自分の身に起きるあの悪夢が、シンを絶望に落とす。
執拗に嬲られて、何度も身体と精神を壊され、
しかもそれはあの別荘の悪夢以前から、シンの意識を薬で奪い凌辱されていたと、
レイに真実を伝えられた。
それにはレイ自身も加担していたと、彼は暴露して震えていた。
親友と思っていた者に、ずっと欺かれていた事実にシンは落胆したが、
レイの生まれと、自身の生まれが同義語で、レイの歪みも同時に理解してしまった。
先に自分を知って苦しんでいた者と、事後報告のように告げられた者との苦悩は違う。
さぞかしレイはシンが実は憎かったに違いない。
同じ境遇なのに普通を与えられた者(シン)を…
でもそれとこれとは違う。
断じてこんな事を赦したらいけない。


「大丈夫。何かあったらステラがシンを守るよ。お兄ちゃんにもお願いするよ。シンを守ってって。
ステラのレイお兄ちゃんは、きっと軍人だから強いもん。」

「えっ?…今ステラ…レイって…。」

次々とステラの口から零れる言葉は、シンを酷く混乱させてゆく。
全てがシンにとって重要であり、しかし全てを受け止めるには余りにも…
「ピアノが上手なレイお兄ちゃん。ステラの家族なの。」
(俺にとってマユのような…レイにとっての妹…なんて皮肉なんだ。)
これでレイが 議長に幽閉されている事が付き止められた。
しかし今の自分の状態では、レイを助けるどころか議長にまた犯されるのは目に見えている。
でもステラとレイを再会させるのは、自分がどんなにそれを拒絶したくても出来ない。
「ステラ…レイと会ったらZAFTにレイを連れて居ってくれないか?」
「どうして?シン。」
「俺の荷物があるんだ。レイしかわかんないから…。君のお兄ちゃんと俺は仲間なんだ。」
ステラの純粋さにもう賭けるしかない。
自然にそう話すと…


「シン…本当は嫌なんだね。涙が零れている。ステラの我儘だもの。
お兄ちゃんも大切だけど、シンも大切なんだよ。」
まるであやす様に頬を摺り寄せて、足を止めてシンを強く抱きしめる。
ステラとて身内(レイ)と自分(シン)を選べる訳がない。
そんな残酷な事させてはいけない。
そう思って居てもシンはステラに頼るしかない。
自然と溢れる涙で視界が奪われる。
そんな時に…

「シン!!こんなところで何やっているの!!」
実家に帰省してしていて、それが終わったのでZAFT帰還中のルナマリアが、
たまたま通りかかり寝巻姿のシンと、抱き抱える少女の傍に駆け寄る。
病み上がりのシンを知っているから、余計に感傷的になって
「何?貴方…。シンが体調最悪なのを知っていてこんなことしてんの?
そもそも貴方は誰なの?ZAFTの紅服を着ているけど、私達の隊にいたの?」
ルナマリアは直ぐに仲間の名前を覚える。

しかし見るからにシンとこんな場所に居る怪しさと、ルナマリアが関知しない者…

(一体…彼女…何者?)