棘〜IBARA〜最終話〜『共犯者達の末路』




「シンがギルの一部だったなんて俄かに信じられない。でもそんな事どうでもいい。
俺はシンが全てだ。愛している。」


虚勢にしか感じられないレイの言葉に…
「哀れだな。レイは…。他人がシンを幸せや壊そうとすればするほどただ気に入らない。
アスランに然り、あのキラ=ヤマトに至ってもだ。一番シンにとっての不幸の種はお前だと解っていても。」
「でもやっと気が付けた。俺の過ちに…。」
「その間シンが感じた苦しみがわかるか?私は彼を真の意味で解放するために一石投じただけ。
しかも彼が知りたくなかった真実まで伝えて。お前はどこかで私がただ横恋慕しただけと侮っていないか?」
「…それは…。」
「事情があって遠ざけた相手をお前のために引き寄せた。しかしお前はそれの深い意味を知ろうとしなかった。
あのヘリで彼を連れて来た日、私は遠縁に預けた一部だとわかってしまった。でもお前が救われるならと、
危険を冒してそうした。そして狂った振りをし続けた。」


謂れのない他人からの暴挙に心中混乱していただろう。
シンの最初の男となったあの日、ギルバードは覚悟していた。
彼に憎まれるのは自分だけでいいと…
レイの情緒が安定したらどんな誹りでも受けるつもりだった。
しかし当のレイは変化の兆しどころか、どんどんシンを甚振って余計に酷くなっていた。
期待した答えは全く得られなかった。
その時長くそんなシンとの肉体関係を持っていたギルバードも、シンをいつしか愛憎の瞳で見る様になっていた。
「元はと言えば俺の所為だったのか。シンをこんなにも追い詰めたのは…。」
「そうだよ。レイ…誰よりも一番先にシンとの幸せが約束されていたのに放棄して、
ただ無駄に時を過ごしていたお前の落ち度だ。」
そう突き放し、一枚の写真をみせた。
そこにはひとりの女の子が写っていた。
「彼女は…?」
「そう。彼女はステラ=ルーシェー。お前の実の妹。そしてシンを私の元へ連れ戻すよう頼んだ。」
ギルバードはその身体能力と容姿でボディーガードとして養育された彼女の所在を突き止めた。
すでにある大物に雇われていたが、それを立場と権力で漸く保護出来た。
レイ同様情緒不安定だったが、彼よりも精神的には強く現実を受け止めて生きていた。
その哀しい兄妹を再会させる為に、願いを込めて貝殻のペンダントを2つ彼女にプレゼントした。
いつか彼女がレイに渡すように…
しかしそれがシンを犯している時に、彼の首に提げられていてシンと彼女の意外な接点を知った。
二人はどこかで知り合っている…っと。
奇妙な因果に驚きながらも、そんな事はギルバードにとっては些細な事。
彼女にレイを委ねておいておけば、シンを自分だけの手中に収めておける。


(生き別れの妹との再会。それよりもまたシンがギルの手に落ちる。)
動揺が隠せないレイにギルバードは
「お前にはどうする事も出来ないよ。そこで大人しく想像の中で私に身体を委ねるシンを感じていればいい。」
「ギル!!止めてくれ!!これ以上シンを苦しめるな。」
背を向けて立ち去ろうとするギルバードに叫ぶが、ギルバードは一切振り向かずその場をあとにした。


再びベッドで眠っているシンは、夢の中で葛藤していた。
アスランへの恋…キラの自分への恋…
そしてレイの想い…
でもやはり自分のなかで蠢く議長との関係が一番きつい。
どう考えてもそこに至ってしまう。
(俺はどうしたらいいんだろう…このままではいけないとは思うのに…。)


そんなシンの傍らキラは甲斐甲斐しく看病をしながら、理性と欲望との狭間に苦しめられていた。
レイやギルバードに強姦されつくした事…
アスランとの間に信頼を越えた愛情が互いにある事…
まざまざと見せつけられ、今また何かを抱えている。
本当に優しく見守ってやりたい。癒してやりたい。
「シン…君の中に僕はどの程度の存在なんだ…。」
しかしそれとは別でシンをこのまま攫い閉じ込めて、彼が自分しか認識できない位に抱いてやりたい。
「君に僕を知ってもらいたい。でもこれではレイ達と同じになってしまう。」
独占欲と性欲が溢れ出て、限界までに追い詰められていた。
今すぐにでもシンの服を剥ぎ取り、その全てを奪いたい。
そっと手を伸ばすと、シンが目を覚まし泣いていた。


「キラさん。俺…そう長く生きられないかもしれない。」
仮に議長の言う事が真実だったとしたら、複製人類(クローン)の運命は暗い。
どんなに科学力や生物学に進化している現在でも、クローンが短命だというのは変わらない。
より精密にシンが誕生させられていても、例外はなくもって25歳位の生命だ。
あれから資料を読んで調べた結果、
まるで開けてはいけないパンドラの箱の様な事実ばかりがシンに圧し掛かる。
こんな事キラに話しても何の解決にもならないのに、言葉が出てしまっていた。
「シン…どんないのちでも必ず最期はやってくる。死という結果が…。
でも僕は君とゆきたい。僕は本気で君が好きだ。愛しているんだから。」
(アスランと同じ事を言うんだ。誰かと生きるなんて俺には無理だよ。)
ただのコーディネーターとして人生を全うしたかった。
両親や妹と笑いあって、そこそこ友人が出来て、何処か気になる彼女でも見付けて…
他愛のないそれがどんなに望んでも手に入らないのが辛い。
仮にキラ達のいずれかとの恋を成就させても、自分が先に逝って彼らを残してしまう事には変わりない。


「俺は卑怯者にはなりたくない。誰の哀しみにもなりたくないんだ。」
残される辛さは嫌な位に知っているから…
そんな事を言うシンを
「だったら一緒に幸せになろう。君が戦いを棄てられないのなら僕も戦う。
君が自分に負けそうになったら僕が支える。だから…。」
シンの額に手を当てて撫でるように、優しく話してくれる。
別荘から帰還するそれまではアスランこそがいつもそうしてくれていた。
ZAFT内では一番の理解者だった。
しかし帰還後はずっとキラが辛抱強くシンを介抱して、キラをより近く感じた。
いつしかその事がシンの中で救いとなっていた。


「シン…僕の愛を受け入れてくれ…。」
シンはキラが嫌いではない。寧ろ好きな方だ。
どこかアスランと同様哀しみを湛え、それでも精一杯生きている姿…
もし出会いの順番が違っていたら、キラの告白を受け入れて、一緒に生きる事に迷いはなかった。
でもレイやアスランの真摯な瞳で告白をされて、その事は無視出来ない。
3人の気持ちを知っているからこそ、ちゃんとした想いで応えなくてはならない。
「俺…キラさんが好きだよ。でも酷いかもしれないけど、レイやアスランも同じ位に大切なんだ。
我儘かもしれないけど、欲張りなのかもしれないけど、みんなで幸せになりたいんだ。
だから俺はキラさんに愛されて嬉しいよ。」
そっと自分からキラの胸に寄り掛かり、ぎゅっとキラの手を握った。
キラはシンが自分だけは選ばないのものと思っていた。
だから本当なら失恋も覚悟していたが、シンははっきりとキラを好き≠チと言ってくれた。
今までの悪意を知ってか知らないのか、そう思ってくれている。
決して恋人関係とまではいかないが、それでも…


「抱いていいかい…シン。」
つい口から滑り落ちた本音がシンを驚かすが
「俺…もう汚れちゃっているよ。」
癒えない議長とSEXの名残がシンを苦しめるが、
「大丈夫。君は全然悪くないんだから。だから僕に有りのままの君をみせてくれ。」
そしてキラはシンを優しく抱き、ベッドに横たえて圧し掛かる。


どこか容姿が互いに似ている二人は、まるで鏡を見ているような錯覚に陥る。
キラが自分を求めている事が、その射抜くような真剣な瞳に物語っていた。
此処には二人しかいない。
本気で拒絶する事も出来た。多少身体が不自由であったとしても…
でもきっとそうするとキラの繊細な心が壊れる。
しかしこれからの事を考えたら応じない事が一番正しい。
「優しくするから…。君が大切だから…」
キラが睦言を呟く自身の恋人の様なそんな気分にさせられる。
だから雰囲気に流され、根負けしたシンはキラとひとつになった。


運命と言う棘道(いばらみち)を直走る二人…
しかし其処にはもう偽りはなかった。
(キラさん。俺を忘れないで…)

自然と涙が伝いシンは自らキラに縋りつく。




一応の区切りです。
しかしまだ決着は着いていません(笑)
書いている内にどんどん長くなってしまい、3部作になりそうな感じです。
続編の『絆〜SIN〜』で完結したいものです。
当初この『棘〜IBARA〜』はシリーズではなく、タイトルは別々で短編であり、
お題からの作品で初期UPはしていたような…?
今では懐かしい限りですが☆