棘〜IBARA〜第九話〜『戸惑いの恋情』
ずっと好きだったアスランからの想いを知って、シンはその手に縋る。
温かい感情のこの人に愛されているという幸せ。でもきっとシンはアスランを不幸にする。
正直議長があれで諦めたとは思えない。
色々と抱え込んでいる今は誰の重荷にもなりたくない。
立場もあって、自分の道のあるアスランには特に…
「俺も貴方が好きでした。もっと早く聞きたかった。でももう何もかも遅い…。」
「そんな事はない。今からでも俺達はもっと深く愛し合えるはずだ。」
そう言いながらシンを強く抱きしめて囁くアスランを拒みたいのに、シンはそれが出来ないでいた。
時に友人のように。先輩のように。兄のように。そして…
「俺はレイを見捨てられない…」
(貴方を本当は諦めたくない。だからこれ以上俺の心に触れないで欲しい。壊れてしまう。)
俺は所詮議長の複製品で、いずれはオリジナルの用が済めばいつでも廃棄される存在。
希薄で空っぽな小さき生命…
それが真実かどうかもまだ確かめていない。
仮に確かだとしても。それからどうするのか何もわからない。誰も教えてくれない。
此処に戻ってきても、未だに議長の言葉と性交がシンを支配して蹂躙していた。
「此処は冷えるな…。」
そっとアスランは寝巻のシンに自分の上着をかけてくれた。
さっきまでアスランがきていたので、仄かなぬくもりを感じる。
いつからこの人にこんなに惹かれたのだろう。
この人からはもう何も期待してはならないのに…
初恋は決して実らないのに…
他に彼を慕う人は大勢いるのに。そして彼にとって自分は些細な存在なのに…
少しだるい身体を壁に寄りかかり預けていると、急に視界が暗くなり見上げると
「シン…俺はお前を離さない。」
アスランはゆっくりとシンの顎を持ち上げ、そのくちびるにキスをする。
最初は触れるか触れないかのものが、次第に深く重ね合わせてくる。
これが決して初めてではない。
シンが現実に苦しむたび、癒しの様に与えてくれたもの。
余りにも優しくそして求めてくるので、シンは耐えきれず口を微かに開いた。
その隙をついて、アスランは舌先を差し込み口腔に侵入して犯してゆく。
「うぅん…くっ…ふぅ…ん…。」
呼吸が整わず更にどちらともわからない唾液が、互いの口の端を伝い流れる。
瞳を伏せ、頬を染めて高揚するシンを見ながらアスランは満足気に微笑む。
「覚えておけシン。これが俺の想い。そしてこれからも俺はお前にこうする。」
「貴方は馬鹿だ。俺の気持ちはどうなるんだよ。」
「知った事ではない。お前の気持ち優先にした結果がこれだ。
レイ達に振り回されて一生消えない心の傷を負って、一人で壊れてゆくつもりなのか?!」
「でもそれしか…。」
「冗談じゃない!黙ってそれを見守るなんて俺はそこまでお人好しでもない。」
本気で怒っているアスランをシンは嬉しく思う。
長く誰に見られても可笑しくない廊下でそうしていると、
「シン…アスラン…。君達何をやっているの?」
何もシンを探していたのはアスランだけではなく、キラも心配して探していた。
歩くのも厳しいシンが、這ってでも向かう先は思い当たるのは二つ…
シンがうわ言の様にその身を案じているレイの部屋。
そして憎らしいがシンが唯一心を開いているアスランの傍。
身体も精神もぼろぼろのシンを、漸く発見して声をかけようとしたら、
アスランとの抱擁とキスを交わす場面に遭遇した。
何かが軋むような、酷く湧きあがる暗い感情に支配される。
「アスラン。君…酷いよ。僕の気持ちを知りながら…。」
そもそもキラの潜在意識の中で、アスランへの憎しみが消えた訳でない。
幼馴染の自分が住んでいるコロニーを襲い、そして戦場に自分を引き摺りこみ、
大切な親友と想い人の命を奪う切っ掛けをつくり、そして今また…
「一体どれだけ僕から奪えば気が済むんだ…」
「キラ…これはお前が悪いんだ。」
「……何を…。」
「俺は言ったよな?シンを苦しめるなと。大切にしてやってくれと。
お前は身勝手な感情でシンを追い詰めた。一度だってシンと向き合って居ない。
いや今更向き合った所で俺がシンを貰う。レイやお前には絶対に渡さない。」
ぎゅっとシンを力強く抱き締めて、キラと対峙する。
しかしキラとて黙ってはおらず
「君は僕やレイに対してどうこう言う資格あるの?君がシンを本気で思っているのなら、
僕達の事無しで、シンとすでに恋人同士になっていたじゃないのか?
君は結局口実がなければシンのために動いていなかった。所詮君も同類だよ。」
目の前で繰り広げられている修羅場が理解出来ないシン。
かなりの剣幕で互いを睨み合っている二人は
「僕はシンが好きだ。一生僕だけの傍に居て欲しい。」
そう言うなりアスランから奪うようにシンを自分に引き寄せた。
余りにも意外な言葉でびっくりしているシンの首筋に、噛みつくように口付る。
所有の証のような紅い鬱血がシンの白い肌に浮かぶ。
「キラさん…何を…。」
「そうだ。キラ。そんな事をしたってシンの気持ちがお前にない事くらい解るだろう?
ずっとシンと俺は惹かれあっていた。お前の知らない俺達は過ごした時間があるんだ。」
「それがどうしたっと言うんだ!!アスラン。」
言われなくともそんな事くらい解っている。
シンがアスランに想いを寄せている事くらい。
だが此処で引き下がる訳にもいかない。
「確かに僕はシンに酷い仕打ちをしたかもしれない。でも僕は本気で彼が欲しいんだ!!」
悲痛なまでのキラの本心を聞いたシンは、その告白にどう応えるべきか悩む。
「キラさん。俺はアスランにも言った。俺の抱えている闇(じじょう)は背負いきれないよ。
それにレイが…今きっと大変なんだ。」
こんな事をしている間にも、レイは議長と対峙しているに違いない。
今は恋愛に現を抜かしている場合ではない。
自分を執拗に狙っている議長との決着が先だ。
「そうだな。シン。彼を早く見付けよう。」
「レイが帰ってくるまで、一時休戦だ。アスラン…。」
お互い思う事はあっても、シンの心配事を解決してやりたいのは同感だった。
たとえそれが恋敵のためでも…
「シン…私ギルバートの一部…。お前は私のもとに戻ってくる運命なんだ。絶対逃がさない。」
隠しカメラで撮影したシンと自分の濡れ場を、デッキで再生してほくそ笑む。
艶やかな黒髪に自分の指を絡め、シンの唇を息も出来ない位貪り、衣服を剥ぎ取り、
激しい抵抗をするシンを屈服させて、その肌や内部を余すことなく愛撫し凌辱する。
実によく馴染む素肌で、一番生まれたままのシンが素敵に感じる。
その生々しいシーンを鑑賞している議長は、シンの痴態を自分を受け入れるその有り様を、
興奮しているのか股間が熱を帯びているのを自覚していた。
この楔で何度もシンを貫き、自分と言う一人の雄(おとこ)を覚えこませた。
狭くでも最後は最奥まで受け止め、泣き腫らした表情で議長を見上げる。
そのいじらしさに理性など働く訳がない。
本当なら今でもそれを味わっていたはずだった。
「レイ。君にはお仕置きが必要のようだ。シンを私から遠ざけたその罪…贖ってもらうよ。
しかし灯台元暗し。シンがZAFTに戻っているとは。アスラン君…そしてキラ君。
君達では私は止められんよ。」
シンを連れ戻す手筈は済んでいるのか余裕な表情だった。
「また私とSEXを楽しもう…シン…。」
そう言いながら地下室のまるで鳥籠のような部屋にいるレイをたずねた。
シンをZAFTに預けた後、ほどなくして捕えられ、シンとはまた別の監禁をうけていた。
「どうだい?そこにいる感想は?レイ…」
酷く冷たい言い方で、ギルバードはレイを詰る。
共犯者同志の二人は、現在はシンへの想いゆえに対立していた。
一方は共に愛し合って生きてゆくため。そして一方は支配し蹂躙するために。
嘗ては逆の見解だった互いは、それに困惑するも譲れない。