棘〜IBARA〜第七話〜『懺悔と差し出された手』




レイはシンを支配しながら…
(お前はどうしてこの異常な他人の感情に気が付かない?)
男共に此処まで襲われておきながら何故?
はじめてシンの態度に疑問と、それに対する苛立ちが込み上げる。
一番自身がシンを破滅に追い込んでいるにも関わらず…


議長に呼び出されて向かった丘の上の別荘。

かなり外装的に多額の金銭を費やして建設されただろうそこの玄関に通された。
レイは車庫に車を停車させ、後から別荘に入って来た。
きっと何か指令があってのことかっと気を引き締めていたシンの前に、
ガウン姿の議長が自ら出迎え、
「よく来たね。シン…」
「はっ!!ギルバート議長。」
敬礼をして用件を待っていたら…
「君…これを見たまえ。」
一枚の写真をシンに見せながらギルバートは質問する。
「誰かに似ていないか?」
そこに映しだされていたのは、生き死にが付きまとう戦場で、
重火器を持っているそっくりな自分と瓜二つの青年…。

「自分に面影が似ていますが…。」
それを聞くなり議長は嘲笑し
「それはそうだよ。これは私の若い頃の写真。君は私の複製…すなわちクローンだ。」
まるで意図が分からないその言葉だったが…
「君の育ての父親は私の遠縁でね。正直迷った。
しかしレイを救うため荒療治だが、同じ境遇の者が居るのをレイに伝えなければならない。」
レイが誰かのクローン?
そして自分が議長の細胞で作られた生命(いのち)?
「何を言っているんですか!?俺は貴方のコピーだなんて…。」
耳を塞ぎ訳が分からない言葉に困惑していた。
シンはマユと実の兄弟ではなく、仮の親戚にあたるだけの存在。
かつてギルバードとクルーゼの遺伝子がコーディネーターを誕生させるラボから盗まれて、
今も続くナチュラルとコーディネーターの戦争利用されていた。
その研究の成れの果てが、シンとレイで二人は兄弟と呼んでも逆に可笑しくない。
ギルバードがシンが誕生した時、幼いシンを抱き抱え逃走した。
あの時唯一保護出来た貴重な者で、シン以外は見捨てるしかなかった。
既に数名自我を持たずに、若い命を散らした者がいるのを風の便りで知った。
自分の分身とも呼べるシンを、理解があるアスカ夫妻に委ねた。


「接点を断つために、必死で他人を装った。しかしもう駄目だ。私が君を欲している。」
成長してこんなにも色香を身につけたシンからもう目を逸らせない。
そう言うなり、シンに近付いて
「レイの慰み者に君は相応しくない。元々私の分身。君の全ては最初から私のものなんだ。」
がたがたと震えているシンの耳元で囁きシンの身体を抱き抱えた。
寝室のベッドでシンを押し倒し立場を利用するが如く、当然のようにシンを視線でも犯す。
残酷な真実もシンのアイデンデティーを崩壊させたが、圧し掛かるギルバードに抵抗する。
「やだ…止めて下さい!!嫌だ。こんな事…。」
こんな真似されたら、次に自分が何をされるのか分かっている。
男の自分を抱こうとしているのだと…女ではない自分を…
しかしギルバードは逃げ場を奪い
「ひとつになろう…もう一人の俺自身…。」
甘い言葉をシンをただ独占したいだけのために投げかける。
「俺は俺です。シン=アスカなんです。」
泣きながら訴えたが
「くっくっ…それで?」
淡々と返事をして、シンを両腕をベッドに縫いとめる様にして押さえつける。
「レイ!!何処に居るんだよ。此処から出して。助けて!!」
まるで話が通じずレイに助けを求めるが、ギルバードは今回はレイすら入室出来ないように、
部屋の解除パスワードを変更し、モニター越しでしか二人の行為を見る事を許さなかった。
そうしている間にもギルバードはシンの衣服に手を掛けて
「本当に私が見立てた通りだよ。シン…知っているか?男が服を与える時っていうのは、
大抵はそれを脱がして楽しむため…下心があるからだよ。」
そんな理屈なんてどうでもいい。
どうしてこんな目に遭わないといけないのか分からない。
抵抗虚しくシンはギルバードに強姦された。


「だんだん私の事しか考えられなくなっているな。君は何て素敵なんだ。」
もう何回も言い聞かせるようにシンを追い詰めてゆく。
朝から晩まで続く凌辱は数日に渡り、激しい抵抗と悲鳴だけが別荘の中で響く。
服も着る事を許されず、何時でもギルバードを受け入れさせられた。
下半身は痛覚が麻痺して、常に男が放ってきた精液が溢れ細い足に伝う。
こんな事のために生きている訳でない。
誰かの男妾になりたい訳でもなく、自分は軍人。
いつまでも続く戦争のスパイラルから人々を守るため、矛盾を承知で入隊したあの日。
議長を信じてその思想に共感していた純粋な自分…
その相手からどうしてこんな扱いを受けているのか?
「助けて…レイ。アスラン…。」
ぎゅっと穢れてしまった身体を抱き締めて呟く。
もうとっくの昔に記憶を奪われながらされていた強姦を知らずに、現在の絶望を嘆く。
優しい二人の存在とそして…
「キラさん。貴方を知りたいと思った矢先に、こんな事に…。」


食事を与えてはくれるが、こんな牢獄のような場所で食欲などある訳がない。
口にはしてみたが、味も感じない上に吐き出してしまう。
自分の身体が気持ち悪い。ギルバードの体液に塗れた肉体が…
お風呂に入っても、そこに映しだされているのは生々しい支配された痕。
どんなに洗い流しても、落ちないどころかまたその後には新たな印が刻まれる。
何時までこんな時間が続くのか、果てがないそれに精神も限界に近い状態だった。


どんどん衰弱して反応も鈍いシンを流石にレイも見ていられなくなった。
ギルバードが語った真実はレイを大きく動揺させた。
幸福な普通の少年のシンだからこそ、こんな残酷な事をしていても躊躇いがなかった。
確かにレイにはなかった家族が傍に居た。しかし出生は不幸と言わざる得ない。
その辛さは痛いほどレイは痛感している。
悦に浸るための存在であったはずだったが、それはこんな自分と合わせ鏡のようなシンに向けるべきでない。


シンが安心するアスラン…

シンに惹かれはじめているキラ…

ギルバードはシンを誕生させた絶対的な存在…

レイはシンにとって居場所がない事に今更気が付いた。
寧ろこんなに分かりあえる存在が近くにあったのに。
「シン…俺はお前とやり直したい。」


そしてシンをギルバードから守るため、ギルバードの留守を狙いシンを連れ出した。
体力も気力も精神力も何もない抜け殻のシンは、外に出ても虚ろで足元が不安定で倒れそうだった。
それを痛々しい思いでレイは後先考えず、ただどこかシンが休める場所を求める。
しかしその行動は忽ちギルバードの知ることとなり、追手を差し向けられしまう。
「どうしたらいいんだ…。これではシンが…。」
そんな悲壮なレイをシンは漸く認識して…
「レイ…俺を置いて逃げろ。お前だけならきっと助かる。」
荒い呼吸でシンはレイを思い遣って提案するが、
「ここにお前を置き去りで逃げたら、今度こそ俺はギルからお前を取り戻せない。
ごめん。こんな事になるなんて…俺の愚かさが招いた事だ。」
少なくともギルバードが本気になる前に、こんな馬鹿げた遊戯を止めるべきだった。
誰かを傷付けたところで、自分が救われる訳で無い事くらい分かっていた。

しかしどうしても別れたくない。例えそれが彼の不幸だと理解しても…

この感情は何だ?

(そうだ。シンを愛しているから…。そしてシンに自分を選んで欲しいから…。)

やっと素直にこの感情と向き合っていたら自然と涙が零れ、抱き抱えているシンにしがみ付く。
はじめてみせるレイの愛情。しかしそんな寂しさをシンは感じたのか
「俺はレイが何者でもレイだと思う。アカデミーに戻ろう。そしていつも通りの場所に…。」
そしてシンは意識を失い、レイの中で安心した表情で眠っていた。
そのシンの薄い唇にそっとレイはキスして微笑む。
こんなにも愛おしい存在を守りたい。きっと魂で呼び合っているシンをどこまでも。
だから…

「決着をつけよう。ギル…。」