檻〜EDEN〜序章〜『檻の少年』





気がついたら生まれていた。

薄暗い研究室の片隅で…

どうして病院で母親に抱かれながら産声を上げられないのか?

そんな事を大して重要とは思っていない創造主。

初めからモラルなど期待出来ない環境で育まれた感情。

だから最初から心は空虚だった。



「どうしても友人になれないのか」



そう訴える視線が頬に突き刺さる。

他人から与えられる感情など、モルモットへの興味が篭ったものしか知らない。

冷たい毒が込められたものしか…



「俺達はもっと互いを補える関係になれる筈だ。」



それは幸せを一度でも知っている人間の余裕だ。

奪われたのは戦争の所為で、家族はお前を愛していただろう。

もしお前がオ−ブで生まれず、無機質な場所で生を授かったら?

普段から皮肉しか言わないお前は、壊れていくだけだろう。



「だからこんな辱めをお前から受ける筋合いはない。」



傷付いたような顔をするなよ。

誰も彼もがお前を壊れ物のように扱ってはくれない。

人間は不完全だから、歪な感情を持て余している。

五感は誰しも持っているんだ。

お前だけではない。

俺はお前が欲しいから抱いているんだ。

性欲の捌け口と同類なものだけど…



全て悪いのはシン…お前だ。

貪欲にまだ何かを求める。

夢や希望などちっぽけな甘い戯言を。

閉ざされた未来を信じて…。

諦めの悪い。強欲な魂…

何もかも放棄した人間には迷惑な一方的なもの。



思い知らせてやりたい。

堕ちる所まで共に堕ちてそして慰めあう。

その甘美な瞬間をお前に植え付けたい。

さぞかし素敵な行為だろう。それは…。

もう綺麗な肉体ではない。

新雪に俺の足跡が残っている。

穢れを知っている華奢な肢体。

更に俺は踏みつけていく事を止めない。



「シン。俺の愛玩動物。お前を今日も抱きしめてやる。」

「何を言っているんだ。レイ。」

「お前は涙が枯れた俺のかわりに、懇願の涙を見せてくれ。

痛覚を無くした俺のかわりに、善がってのたうちまわってくれ。

それ以外お前から必要はない。」



怯えるお前を見て微笑む自分を受け入れてくれ。

それだけが望み…

唯一の悦びに似た思い。



しかし心臓が異様に煩い。これが独占欲なのか?