檻〜EDEN〜第九話〜『仄かな決意』





ベッドの上で重なり合っている二人…


しかしそれはアスランの一方的な事で、シンは何でこんな誠実そうな彼まで、
自分にこんな真似をしてくるのか分からず、追い詰められていた。
そんなシンの心を見透かしたように…


「遊びで手を出している訳でないよ。シン…。ましてや男同志で…。言っただろ。
俺はシンを忘れられなかった。それはシンも同じじゃないのか?」
アスランは手でシンの茎を扱きながらそう囁く。
いつの間にかブリーフも脱がされていた。
ぬちゃぬちゃと音が響くのが、羞恥心を更に駆り立てる。
「あ…ぁぁ…ふっ…。」
アスランの行動を拒んでいるのに、与えられる愛撫にいちいち反応している。
シンの先っぽから滴り落ちる精液…
これは生理現象なんだからっと言い聞かせようとするが、そもそも男の手で感じるなんて、
常識的にあってはならない事だ。
嫌悪している心と、それとは別で過敏になっている肢体。
シンは耐えられず、瞳から涙を溢れさせた。
「お…男同士なのに…。やだよ…。」
「そうだね。シン…。でも俺達は互いの肉体を曝け出し知る事で、もっと深く分かり合えるかも知れない。
少なくとも俺はそうしたい。」
「俺の心が追い付かないよ…。」
「本当に嫌なら、俺を殴ればいいよ。」
「そうじゃない。まだ貴方の事を俺は何一つ知らない。」


優しい事…軍人として立派な事…戦争で傷ついた事…
まだそれ位にしかアスランを語れない。
シンもアスランをもっと知りたい。
既にシンはアスランの事で頭がいっぱいだった。
急ぎ過ぎなアスランの性交で、頭が混乱しているだけだともう分かっている。
「ゆっくり時間を掛けて知っていけばいい…。」
「だったら…手首のネクタイを解いて…もう逃げないから…。」
愛し合って求めあうものではなく、まるでアスランに犯されているみたいだ。
流石にそれだけは絶対嫌だと懇願すると…
「いいよ。確かに無粋だ。俺も良い気分はしない。」
徐々に自分のセックスに悶え初めているシンに満足しているのだが、
こんな拘束プレイを愉しみたいのではない。
片手で器用に解き、もう片手はシンの蕾を探っていた。
まだ誰にも正気では…こころから赦した事のない場所がアスランに触れられる。
細く長いアスランの指が、シンの入り口を探し当て、そこに有ろう事か差し込んできた。


「ああああ…やだ…其処は…あぁぁ…うぐっ…。」
自由になった両手でアスランの肩を掴んで押し出したが、アスランは諸共せず更に激しく出し入れした。
ぐちゃぐちゃと内部が掻きまわされ、その度にシンは下半身を揺らす。
最初は一本だった指が、次第に増えてゆき、その痛みやきつさにシンは戦慄く。
狭い蕾がじわりじわりと拡がってゆく。
しかし裏腹にその渦中で興奮しているのか、シンの精液がはしたない位にベッドを汚す。
それを見てアスランはシンのペニスをその口で銜えた。
「止めて…汚いから…。」
キャンディーでも頬張るかのように、舌もつかいそのシンの蜜をアスランは飲み込み…
「どうして…これはシンの素直な気持ちだろう?」
糸がひいている粘着質なそれを、さも美味しそうに喉を嚥下させてそう囁く。
どんどん思考が麻痺してくる。
羞恥心と理性が快楽に絡めとられる。
そんなシンを満足気にアスランは見て、一旦手を離す。
「はぁはぁはぁ…くっ…。」
シンは荒い呼吸でアスランの動向を待っていた。
アスランは熱を帯びた自分のズボンのジッパーを下ろす。
そして既にシンの喘ぐ姿に、勃起していたいちもつを取り出し、シンの蕾に宛がう。
指とは比較にならないそれに、シンは拒絶をして
「駄目…それだけは…。」
もともと受け入れる場所で無いそこに侵入しようとうねる太いモノ。
指だけでもかなりきつかったのに…


「止めない。俺も限界だから…。」
シンの制止を振り切り、まるで捻じ込むように貫いた。
「やぁぁぁ…痛い…あああ…。止めて…あぁ。…うっう…あぁぁ…。」
奥へ奥へと容赦なく突き進むアスランの雄。
慣らしたとはいえ、入口は狭く異物を挿入したため切れた。
どちらともいえない精液の中、シンの血が混入していた。
ベッドに点々と紅い染みが作られていた。
しかしそれに目もくれず、目の前のシンを抱く事にアスランは夢中になっていた。
激しく己の腰をシンに打ち付けて、最奥まで支配してくる。
「ふぅ…くっ…!!」
シンの腰を引き寄せては、アスランは更に自分のモノが質量を増しているのを感じる。
もう汗か…涙か…それともお互いが放ったものか…
いろんなもので汚れて、昂っているアスランはシンの中で絶頂をむかえた。
「あっ…あああ…。」
突き刺されたそこから溢れ出ているアスランの熱。
シンは生温かいそれを感じて、自分も限界がきて頭が真っ白になって果てた。
しかしアスランは、シンが気を失っても愛撫を止めない。
反応が無いのは詰まらないが、構わないと言わんばかりに深くシンに口付け舌を差しいれ犯す。
腰を更に引き寄せて自分の満足がいくまで、シンを際限無く味わっていた。


それから数時間後…

むちゃくちゃにシンを抱いたアスランは、シャワー室で自問自答していた。
きっと彼はこんな事を望んで、自分の部屋に来た訳ではない。
互いが気になっていたかもしれなかったが、ほぼ初対面に近い関係で繋がった。
キラの時でも一応は段階を踏んだというのに、シンを目の前にしたらそうは出来なかった。
それは少しでもシンの心にも身体にも自分を覚えこませたかったから?
現実をある意味拒絶しているシンに…
流れるシャワーのお湯が全身を温めるが、シンとのSEXの高揚感には勝てなかった。
これっきりには絶対にしない。
シンとちゃんと絆を深めて、何度でも交わりたい。
いや…いつか彼から求められたい。
そして蛇口を捻り、タオルで身体を拭いてシンが眠っているベッドを覗く。
随分疲れたのか、深い寝息をたてていた。
身体のあちこちにアスランが刻み込んだ愛撫の痕が散らばっていた。
「まるで俺によって翅(はね)をもがれた蝶の様だな。」


―――アスラン…。もう止めて…―――

必死に制止しても遠慮なくアスランが自分を露わにする。
見られたくなかった自分の痴態を晒してしまった。
こんな事男同士なのに…っとモラルが警鐘を鳴らすが、お構いなしに…
何故…シンのこころを理解する前に、奪うようにアスランは抱いたのだろう。

―――自分ですら自分を守れない。それを思い知らすため…―――

でもアスランが嫌いになれない。
例え心身とも負担が多くとも、アスランとのSEXは優しさがあった。
逃げ場を奪ったが、シンを決して貶めたり、嬲っていた訳では無い。
こんなに求められたのも、感じたのも初めてだった。

―――あの腕でもう一度抱き締めて欲しい。なんでこんな気持ちになるんだ…―――

不可解な想いがシンの中で静かに芽吹く。
ぎゅうっと背中を丸めて、縮こまりながら自身に問いかける。
今もアスランの放ったものの臭いが自分を包む。
触れられた場所もなかなか感触が消えない。
何よりアスランの事から頭がはなれない。

―――切ないよ…もどかしいこの感情は一体…―――

シンは眠りながら、その目尻に涙を伝わせた。
そのシンの涙を拭うように、アスランはベッドに潜り込みシンを抱き締める。
自身の胸板に強く引き寄せて、
「シン…俺がお前の空っぽの心を埋めてあげるから、もう泣くな…。」
聞かれているか分からないが、アスランはそっと囁いた。
黙ってそれをきいて、シンは
(この人と一緒にずっといれたら幸せだろうな…でも…)
それは絶対叶わない。
こんなに素晴らしい人と自分は不釣り合いだろう。
どんなに手を伸ばしても、縋っても決して届かない。

(でもせめて今だけは赦して欲しい。アスランの傍に居ても。)
身も心も今…この刻…全てをアスランに預けて、シンは幸福を噛み締めていた。