檻〜EDEN〜第八話〜『戸惑いの感情』





アスランとの運命の再会。


カリキュラムに集中出来ない位に、色々な感情がぐるぐるしていた。
しかしそれでも時間は流れて、アスランの部屋の前にシンは佇んでいた。
(ちょっと緊張してきた。)
そう思って呼び鈴を鳴らそうとしたら
「シン…待っていたよ。」
…っと部屋からではなく背後からアスランが声を掛けた。
その手には二人分のドリンクと、脇に書類を挟んでいた。
「部屋に入ってくれ。」
そう言うなりカードキーで部屋を開閉して、シンを招き入れた。


一歩中に入ると几帳面さが表れて、整頓されていて本が並ぶ整ったものだった。
机とベッドしかないのは、ZAFTの個室の部屋環境では当たり前だったが、
アスランの部屋は特別仕様で、奥にはキッチンがあった。
「料理されるんですか?」
呟きの様な言葉が自然と出たシンに
「簡単なものなら嗜む程度には。仮に野戦になった時や遭難した時に困らないように、
食材の調達や捌き方などは必要だろう。」
深い考えでアスランは何事もしている。
伊達に此処まで生き残って来た訳でない。
シンは感心して、キッチン周りをうろうろしていた。
そんなシンを見ていたアスランは
「今度教えてあげようか?料理は共同でやった方が楽しいし…。」
「えっ…良いんですか。嬉しいです。」
キッチンで調理していた亡き母の背中…。それを微笑ましくみている亡き父…。
亡き妹にかつて弁当を母を手伝って作ってあげた事もあって、何故か懐かしい…
立ったまま所在無しに、アスランの部屋を見ていたシンに
「生憎…椅子の予備がないので、ベッドにでも腰を掛けてくれ。」
きょとんとしていたが、シンは言われるがままベッドに腰を落ち着かせる。


そしてドリンクを手渡し
「君とこうして話すのはどうしてか…俺自身も戸惑っているが、どうしても知りたくて。」
「一体何をですか?」
「君が軍人な訳を…。此処にはたくさんの軍人希望者が後を絶たない。
しかもまだ若い若人ばかりが…。その中でも俺は君に興味をもった。」
「みっともなく泣いていたから?あれは忘れて下さい。」
きっとカリキュラムの何かでつまずいて、それで泣いていたのだろうと誤解されている。
それでも親友に襲われ、それで泣いていたなど真実を話す事は出来ないが…
「そうじゃない。涙の訳も勿論気になるが、月並で悪いが何の為に軍人の道を選んだ?」
急にアスランの意図が掴めず、シンは下を向いて表情を曇らせる。


大抵…親が名誉のため送り込まれた者、戦争で孤児となり生きる為に仕方なしに此処に居る者。
世界に革命をおこしたく志し高くこの道を選んだ者、単に人の命を奪う事に悦を感じている者。
様々な理由が想像出来るものだったが、
「俺の志願動機ですか…俺は家族を先の戦争で喪い、議長に導かれて此処に来たんだ。」
出来れば火薬の臭いなど、トラウマになる位のもので、本当は此処に居たくない。
戦いとは無縁の場所で、静かに暮したい。
どうやったら他人(てき)の生命を上手く奪えるのか、戦場で功績をあげられるのかなんて、
シンはそんな事に人生を捧げたくはない。
しかしナチュラルとコーディネイターとの戦火は、何時までもどこにいても燻っている。
自分だけ見逃して貰える訳が無い。


「だって誰も彼処も矛盾だらけ。生まれを弄られた者が迫害され、
でもそれを弄る事を止める事も認める事もしない。そうして不毛な戦いだけが拡大するんだ。
俺はそれを赦せず此処に居るんだ。」
その果てで失った幸せの時間が、シンをずっと苛んでいる。
それをひしひしと感じたアスランは…
「俺は先の戦いで、それに加担していた。この手で多くの生命を奪った。
その渦中に君の家族が居たかも知れないのに…。」
ガンダムに乗って、あるいは白兵戦で戦場を駆っていた。
軍の命令…と言う免罪符を片手に…。
「戦争は個人を個人としてみない。敵か味方か…その記号だけでみるんだ。」
自己の感傷など入る余地もなく、ただ敵の殲滅だけが許される。
シンもアスランが漸く何を言わんとしているのか解ってきた。
まだ正式な軍人としての戦争経験がないシン。
それを経験して知っているアスランの苦悩。
二人は方向性は違えど、戦いに囚われている。
「シン…。この手で引き鉄をひいてしまったら、もう後戻り出来ない。
どんなに理屈を並べても、その事実は消せない。君が奪う生命にも未来はある。
その者を愛している者もいる。それを君はわかっているのか?」


諭してシンに別の道もあると、伝えようとしてくれている。
こんな事を言ってくれたのはアスランがはじめてだった。
まだ罪を覆う事もない今ならそれが可能性として残っている。
一介の後輩の自分なんかに真剣になって、親身になってくれている。
「ありがとう。俺…でも…守るべき家族もいない。これしか自分を守れる方法も無いんだ。
自分の意志もいのちも…。」
またじわじわと哀しくなり泣きそうになった。
多感な時に立ち込めた暗雲(ひげき)は晴れる事がない。
正しい事を当然として生きたいが、それは圧倒的な暴力(せんそう)の前では非力だ。


「誰もシンを守ってくれないとそう言うんだな。」
「それが現実なんだよ。貴方にはわからないだろうけど…」
どこか自分でも歪んでいるのはわかっている。でもどうしようもない。
その言葉を聞いたアスランは、徐に椅子から立ち上がりシンをベッドの上で押し倒した。
シンの手に握られていたドリンクが床に転がる。
「俺がシンの哀しみを背負う。だからそんな事を言うな。」
シンの手首を掴みベッドに縫いつける様にして、見下ろしながらそう言うアスランに
「何を言っているんだよ。同情ならいらない。俺は憐れて欲しいなんて思っていない。」
上司だからって、どこか優しい瞳だからって、身の上を話すべきじゃなかった。
アスランがこんな話を聞いて、混乱する位なら…
「シン…俺は其処まで親切な男ではない。」
ゆっくりと顔を近付け、シンの耳元で
「もっと君に近付きたいからだ。」
そしてシンの項にキスをして、誘っているようなシンの唇を奪った。
その行為にシンは流石に飛び起きそうになったが、アスランは一向に解放する気配がない。


次第に口付けは深くなり、呼吸が苦しくなったシンの隙間を狙い、
アスランは自分の舌を差し込み、シンの歯列を割り、口腔を激しく犯す。
「うっ…ん。くふっ…ん。うう…ん。」
息も絶え絶えで、口の端からどちらのものとも言えない唾液(みつ)が伝う。
角度を変えては激しく吸い上げられる。
それを拒絶したいのだが、身体に力が入らず成すがままになっていた。
そしてシンの手首を片手で固定し、もうひとつの手でシンの襟のボタンから外し、上着を脱がし始めた。
露わにされた胸元の、ささやかなシンの突起をアスランは弄ぶ。
指先で摘まれ、そして押しつぶすように解される。
それに感じたのかシンは震え反応を示す。
「ふ…うっ!!やだ…何で…」
抵抗をして制止をしたが、アスランは聞き入れるどころか傍にあった自分のネクタイでシンの手首を縛ってきた。
そしてシンの脚を割る様にさらに固定して、今度は舌でシンの突起を愛撫した。
「シン。君は俺一人でもこんなんだよ。全く自分を守れていない。」
こりこりと乳首を噛みながら、シンの甘さを非難する。
徐々にあちこちと噛みつくように所有の印を刻み付けて…
「その事を認めるんだ。」


その言葉を言い終わらないうちに、シンの下半身にまで手が及び…
「何をすんるんだよ。止めてよ。」
冗談は引き際が大事だと訴える。それに感情が追い付いていない。
ベルトをがちゃがちゃと外し、ズボンを取り除きそれをベッドの外に放り投げた。
ブリーフだけがシンを唯一覆っている最後の砦。
それの中に手を差し込み、シンのいちもつを握ってきた。
「ぐっ…ふ。あぁ…。」
余りにもの衝撃で思わず喘ぎに似た声が上がる。
もうどうしようもなく恥ずかしくって堪らず、アスランから顔を逸らす。
「だんだん感じているみたいだね。」
「お願い…これ以上は…。」
アスランがどういうつもりでこんな事をしているのか、全く分からない。
後輩虐め…興味本位…それともこれが折檻…。
(強姦されているの?俺…)
そう考えどこか傷付いている自分に気が付く。


さっきまでの二人の優しい雰囲気は、一体何処に…