檻〜EDEN〜第六話〜『狂乱の朝焼け』





自分の軍服の袖で、口元を拭うレイ。
そしてシンの吐息が荒くなり、レイはほくそ笑む。


何も愛撫していないのに、乱れ自ら熱く興奮しているシンを
「苦しい?でもこんな目にあって当然なんだ。ヨウランに欲情されて、アスランに見初められて、 淫乱なこの姿態が全て…。」
冷たく言い放ち、レイは襟元を緩めて舌なめずりをする。
シンの上半身を両腕で起こして、手で頭を支えながらシンの顔を間近に見る。
「まるで美女の生き血を狙う吸血鬼のようだな。本当に素敵だよシン…」
対するシンは火照る様に熱く、眉を顰めながら我慢して
「あぁ…うっ…く…あぁ…」と悲痛な声を上げる。
しかしそれは、性欲をもって見つめる男には逆効果だった。
更に苦痛を与え、身も心もズタズタにして、自分色に狂わせてみたい。
そんな非情さがレイの神経をより一層、悦びで満たしていく。
そして徐に、艶めかしい誘っているシンの唇を奪う。


顎を捻って、シンの口腔にレイの舌が差し入れられる。
歯列を割り、貪る様に舌先がうねり、奥へ奥へと突き進んでいく。
無理矢理滑り込むそれを、唯でさえ整わない呼吸なゆえ、不快に思ったシン。
(何だ。この感覚…すごく嫌だ…)
シンは無意識に、薬で痙攣した腕でレイの胸板を押し上げた。
完全に薬…そう性欲増強剤と思考を失わせる効果のあるそれがまわっていなかった。
だからほんの少しだけ、五体に感覚が残っている。


だが、それが精一杯の抵抗に過ぎない事は一目瞭然。
レイは見下ろしてそれを無視してシンの口を犯す。
“ピチャ…ピチャ”っと淫靡な音が、無機質な空間に響く。
シンの蜜を全て侵食するために、そして自分の欲望を受け入れさせるため、 レイはきつく、そして際限なく貪って行く。
口の端にはどちらともつかない、唾液が毀れて厭らしい印象を与えていた。
ベッドの横からシンを抱きかかえて、覗くように接吻を繰り返していた。
しかし次第に押し倒して馬乗りになって、シンの逃げ場を奪う。
そして徐にシンのシャツを捲り上げる。
其処にはヨウランが惨いと感じた強姦の後が、むざむざと鮮やかにあった。


−ギル…がっつき過ぎだよ。ほらこんなに痕が残って…。我慢が出来なかったんだな。
突起に歯形がくっきりとついている。でもヨウランは馬鹿だね。
前の雄(おとこ)の 痕を消す度胸も無かったんだから。少しでもそうすれば見直したのにな。−


相手にはしていなかったが、一応シンに手を出せた事だけは感心していた。
いつも友情とは名ばかりの、欲情した視線で常にシンを視姦していた。
スキンシップとしてしか認識出来ないシンの身体に、過度な接触をし周囲の目を欺いていた。
だが、レイにはそんな子供騙しは通用しなかった。
シンの傍の存在に異常に敏感な彼…
直ぐに気が付いた。
同じ穴の狢と人は表現するが、決定的に違っていた。
ただ自分と違うのは、彼には理性がまだ残っていた事…
そう優しさと言う、凡そレイがまだシンに対して持ち合わせていない感情を…


−アスラン=ザラ…さて貴方はどう出る?こんなシンを目の当たりにして。
哀れなシンに優しく手を差し伸べるか、雄に目覚めこの娼婦のような誘う体を、 本能のまま奪うのか…楽しみだ。貴方の出現は…−


多分シンにとって、たった一筋の救いになるだろう存在…
そういう意味でレイはらしくなく警戒する。
それは天国と地獄を同時に味わったシン自身が一番わかっていた。
信じていた親友に、女のように扱われて欲望をぶつけられる。
挙句の果てに通りすがりの青年に慰められる。
自尊心などもう無いに等しい中、まだレイの前で普段を装う。
実際はヨウランに怯え、眠れぬ夜を過ごしているのに…
しかし自分に注がれる確かな愛情を欲しがっている。
漸く現れた優しい手が、先の戦争の役者だとはまだ知らずに…
その態度がレイの暗い感情を呼び起こしたのか?
それとも…『嫉妬』と言うものなのか?
レイすらその答えには興味がなかった。


そう心で吐き捨てて、シンの突起をレイは舌で転がす。
冷たいひんやりとしたそれに反応したシンは、仰け反って拒絶する。
頭(かぶり)を振って、恐怖を体現して…
しかし歯を使ってこりこりと解す無情なレイには無駄な事…
桃色のそれは、次第に唾液で鈍くひかり、紫色に変色していた。
豊満なバストも無い男のささやかな部分でも、他人からの愛撫には素直だった。
ゆっくり上部を時には優しく舐め、時には噛み付くように所有の証を刻む。
「あああ…うぅう…あぁ…」
零れるシンの嬌声を耳にしながら、それをオカズにしながらレイの下部も質量を増す。
へその辺りには数滴、生暖かいそれがはねてシンを淫らにする。
白濁したそれをレイの綺麗な指で絡めとり、その 指先でシンの性感帯を探り、徐々にシンを生まれたままの姿に変えていく。
そして徐に黒いシンのブリ−フを、“ビリッビリッ…”と 鈍い音を立てて破り取り去った。
そこに剥き出しとなったシンのペニス…
周囲には俄か程度な産毛があり、一糸纏わぬ姿態にさせた。


まだ女を知らないその雄は、代わりに別の場所が男を受け入れ知る事となる。
急に全裸にされて、外気に晒されて身震いをするシン。
意識を奪われた筈のシンの瞳に、惨めな涙が伝う。
本能で陵辱されている自分を嘆いているのか…。
それを知りながらでも、もう後戻りは許されない。
レイの逸物が、シンを刺し貫き欲望を満たすまでは…


(お前が悪い…常識知らずで恥知らずなこの誰でも誘う肢体が…)
レイは自分の雄を握り、それを本来は排泄をする場所に宛がう。
そしてまだ何も準備していない、慣らされていない蕾にレイの猛る情熱が叩き込まれる。
「ああああああ…ききゃぁぁ…ぐっあああ…」
脳天に響くシンの悲鳴が劈く。
先っぽだけでも狭い入り口に、容赦なくどんどん奥に突き進む。
そして腰を激しく揺らし、シンをレイだけの娼婦にしてゆく。
その激しさを伝えているのか、白色のシ−ツにシンの強引に開かれた其処からの 鮮血が花弁のように、撥ねて飛び散っていく。
マグマの様なレイの精子も、卵子がないシンにでも蠢き侵食してゆく。
玉のような汗がシンの身体に輝き、卑猥な情事を浮き彫りにしていった。
(何度俺とギルが仕込んでも、お前は処女のようだよ。
だから何度抱いても飽きる事などない。自分だけのものだと確信出来るまで…)


そしてレイはシンの肉体を貪り続けて、何度も楔を打ち込み、丹精込めて犯していった。



その甘美な次の日・・


「う・・ん。あっ・・遅刻だ。」
何時も通りの寝坊をして飛び起きるシンだったが・・
「い・・痛い。なんだよ。この下半身の痛みは・・。」
鈍痛がシンの目覚めを襲った。
貧血のようにふらっと前に倒れそうになる。
足元が覚束ないそれを、洗面所から出てきたレイは暗く微笑む。
本来痛みを覚える所ではない所でのそれは、シンを困惑させるのに十分だった。
レイは行為の後、シンの処理をきちんとして、何食わぬ顔で隣のベッドで眠った。
本来愛しい思いがある、恋人関係だったら共に眠り、共に寝起きを確認する。
そして交わされる睦言に、幸福を感じあえる。
でも予定調和な関係を望むレイによって、それは齎される事無く、いつも乾いた朝を迎える。


「シン・・置いていくぞ。」
早くに訓練用意の仕度が出来たレイの呼びかけで、シンはそれを考える時間を奪われた。
いや態とそれを考えさせないように、シンを急かすレイ。
(まだまだだよ。シン…。お前にはもっと堕ちて貰わなくては面白くない。 だからそれまでは…人形でいい。)
そう悲しい事を心で吐くレイもまた、果ての無い欲情を高めていく。
そして昨日まで自覚が無かった思い…他人(ギル)と共有するシンの肉体に不満を感じる。
必要以上に求めた分、シンも今まで以上に女のように乱れ美しかった。
(ギルはもっと違うシンを知っているのか…。それとも…)
微かな疑惑が、何処かレイの頭を支配していた。


しかしそれ以上に熱い感覚だけを残された、消化出来ない現実をシンは更に抱えていく。
夢と現(うつつ)の狭間で…