★国立オ−ブ学園事件簿★

『入学式』










此処は常春の【国立オ−ブ学園】
理事長はウズミと呼ばれる由緒正しい企業の出世頭。
国立と言うだけあって、博学が問われる校風。
幼稚園から大学院まで完備されて、例えるならベルサイユ宮殿のような華やかな外観だった。
花々が咲き乱れて、通学、通勤にはブルジョワならではの、リムジンやベンツ…。
はたまた世間のごく一般常識を理解出来ない者は、ヘリなどでも通っている。
そんな温かい国内はいつも賑やかでお祭り気質満載だった。
しかしその中でも最も騒音をばら撒いているのは此処だった。
っと言うより問題児の巣窟だった。


如何にも金をかけたと言わんばかりの、重く装飾された扉をノックする、緑の髪の少年が居た。
「今沢山の新入生が入学しました。アスラン・・」
本日は入学式で、新入生は慣れない校内でそわそわし、在校生が慌しく動き回る日。
多そうな書類を持ってニコル委員が生徒会室に来ると・・
黒塗りのソファ−の上で、面妖な息遣いが聞こえて、ニコルは首を傾げたが
「だ・・め。来ないでくれ。ニコル・・あ・・。」
「そうだぞ。今お取り込み中だ。後にしてくれ。」


何の事だ?とあえて訪ねれば自殺行為。
足元に転がっている二人分の制服を見れば、おのずと答えが導き出される。
しかしそんなニコルの心労は二人にはスル−され、公共の場で展開する行為は、とどまる所を知らない。
(これでもアスランは生徒会長に、満場一致で当選してしまって、それをいい事に、 幼馴染を副会長にして、いちゃこりゃしているんだから。切ないような。)


アスランは貴族の末席の母を持ち、生まれながらのおぼちゃま気質。
大抵の我侭は指先一つで叶えられるものと思い込み、いつでも周囲を省みない。
しかし成績はIQの値が常人より優れており、誰もその素行には注意出来ない。
いやする勇気が無いと言った方が的確であった。
彼が歩くと自然と道をあけて、お辞儀をしてしまう位に貴公子。
そんなアスランが抱き抱えているのは、彼の幼馴染のキラだった。


母親同士が親友であり、父親方の親戚。
学園の公認のカップルである。
アスランは当選した時の演説で、キラの周囲1メ−トルはアスランの許可無く近付くなと牽制した。
よってキラは身内の従妹のカガリしか話し相手が居ない。
寂しい学園生活を過ごしているが、目の前の男はお構い無しだった。
最も家までが隣なので、必然と偶然が作用している。
男にしたら弱々しい素振りが売り文句。
恥じらいをみせて常にアスランのハ−トを揺さぶっていた。
アスランの心臓の半分の機能はキラに支配されている。
脳に至っては全てがキラで埋め尽くされている。
汗が玉のように浮き出て、二人は正しく合体中だった。


かなり嫌な場面に遭遇したニコルは溜息が零れる。
誰も見たくて此処にいるんじゃないと、罵りたかったが
「それより仕事をして下さい。それでなくとも口ばっかりなイザ−ク書記ととディアッカ会計は、 今一役に立たないんですから。」
どうにか機能しているのは、ミゲル風紀委員長とラスティ図書委員の協力があるからだった。
新入生の案内や保護者への説明で、ニコルは疲労が溜まっている。
猫の手も借りたいのに、肝心の生徒会長と副会長は別に情熱を注いでいる。


(何で僕はこの学園に入学したのだろう?他へ編入しようかな?)
そんな学園を更に大きな悲劇(もんだい)が襲う。


「お前〜!!襟をきちんとしないか!!だらしないのはこの学園では通用しないぞ!!」
「煩いな。このおかっぱ先輩は。別に俺は入学試験で10番内なんだからどうだっていいだろう!!」
「何だと!!生意気な後輩が!!俺は2位で入学したエリ−トだぞ。」
「誰かあんたの上に居たんだから威張れる事じゃないじゃないか。それよりいい加減解放して下さい。」


プライドの権化のイザ−クに噛み付く黒髪の少年…。
周囲ははらはらしながら見守っていたが、怖いもの知らずの少年は
「ったく…。これじゃ完全遅刻じゃないか。校門の前で鬼女が立ち往生なんて…。今日はついていないな。」
懲りず文句を重ねるそんな中…
「シン…。先輩はお前の事を一応考えて言っている。だから謝って通してもらえ。」
「レイ。(ぽっ!!)分かった。其処まで言うなら謝るよ。」

頬を染めて見上げる黒髪の赤目の少年。
シン=アスカ(16歳)高等部。
本人も語ったようにTOPクラスの学力を持つ。
趣味はウインドショッピングとは名ばかりのお遣い。
中等部に美少女で、男子のアイドルマユと言う妹が居る。
世間知らずで、運動神経が乏しい。
そんな彼女が心配で、彼女の桃色の携帯は彼の赤い携帯からの着信履歴を重ねている。


つまるところ重度のシスコンである。


マユはお節介と面と向かって言えず、でも兄に対して激しいブラコンパワ−を発揮していた。
待ち受けは兄とのツ−ショット。
いまどき無い位、あつ苦しい兄妹だった。


そんなシンが唯一懐いているのは、幼稚園から一緒だったレイ=ザ=バレルだった。
眉目秀麗で、学識が高く、音楽も嗜んでいる絵に書いたような優等生。
しかし優等生の悲しい性(さが)、問題児が大変お気に入りと言うケ−スにレイも漏れなかった。
シンが砂場で遊ぶのが飽きた時、ジャングルジムを上り始めて足を踏み外して落下した。
その時、丁度真下に朝顔の観察日記をつけていたレイがいて、膝を擦りむいたシンをなだめた。
其処からの腐れ縁。
しかしひねりもへったくりも無い所から、大抵は何かの切っ掛けを与えられる。
レイはあの接触を不幸とは一切考えず、それどころかシンを手元に置いときたい欲望でいっぱいだった。


そんな目に入れても痛くないシンがピンチなら、何処からともなく駆けつけて何とかするのが男の役目。
幾らイザ−クが難攻不落な相手でも、ディアッカが食えない先輩であっても怯まず、前進あるのみだった。
「済みません。俺からよく言い聞かせます。先輩方。」
そんな献身さが伝わったのか
「分かれば良いんだ。おい其処の3人組!!」
「何だよ。うざいな〜!!」
水色の髪で面倒臭そうに応じる少年を捕まえてイザ−クは説教をした。
いや…それではなく新たなカモを見つけただけだった。
それを一番大人っぽい少年が、食って掛かろうとする面倒臭そうな少年を制して応対する。
それをぼ-と見詰めている金髪碧眼の美少女。
シンはそれを気の毒そうに見ていたが、レイが促したから教室が何処か掲示板を見た。
「シン…俺達同じクラスだ。これで小学校から今までずっと一緒だな。」
「うん。そうだな。嫌か?レイは。」
「いや。嬉しい。これで俺も頑張った甲斐があったと言うし…。」
「レイのギル叔父さんは優しいからな。二人でおねだりした甲斐があるよな。」


レイの叔父さん。ギルバ−ト=デュランダルは、二人の恋愛にはなくてはならないスポンサ−。
敏腕企業マンを自負して、どこからともなく大金が彼の手に集まる。
その資金の浪費には必ずシンとレイが絡んでいた。
二人の事をべらぼうに気に入って、何でも与えてくれる足長叔父さん。
日本美人なシンと、英国美人のレイを愛でるのが趣味らしい。
如何にも高そうな学園に入学出来たのは、彼のお小遣いからだった。
裏で常に二人が共にいられる時間を作るため暗躍して、世間を困らせている。
本人は出来れば三人で恋愛出来たらと都合の良い夢を見ている。
でも現実は甘くなく、より濃厚になっているのは少年達のみだった。


ご愁傷様である。




「でも余り見せるなよ。お前の肌…。」
「えっ…?何?」
「乱れた谷間からシンの白い肌が見え隠れするんだ。だからそれを他人に見せるな。」
そう言いながら木陰に隠れてシンの唇にキスをした。
舌先が蠢いてシンの口腔をまさぐり、口の端にはどちらとも言えない唾液が零れた。
「はぁはぁ…。レイいきなり・・あぁ…。」
憂いを秘めた瞳で見詰め返すシンの色気にレイは心乱された。
だから執拗にシンを求めて、貪るようにシンの誘う唇に食らいつく。
次第に肩で息をし始めたシンに、我に返ったレイはシンの学ランの襟を閉めて抱き締めた。
(早く慣れてくれ。俺はそんなに我慢強くは無いんだぞ。次の展開には何時になったら…)


腰を抜かしたシンを支えるようにレイは歩く。


その胸中は、これからの楽しい学園生活を想像しながら…