アゲイン!!〜第一話『刹那の幸福』



進藤ヒカル…

僕の永遠の囲碁のライバル。
初対面が最悪だったために、未だに屈折した思いを抱いている。
出会って既に5年を経過していた。

国際的な大会だった【北斗杯】から半年後…
日増しに成長するヒカルを過大評価するくらいに、
アキラはヒカルという存在が重くなっていた。
生まれてこの方、女性と付き合うどころか、初恋もまだな二人。
ましてや同性など対象ではないはずだった。

彼と微妙な関係を築きながらも、何事も無く日常は過ぎていった。


殆ど囲碁の話ばかりで、自分達の世代の話は一切しない変なものだけど・・
この想いに結論を出すためにヒカルと待ち合わせた。


「進藤・・今日は誰かと予定あるか?」
「いや・・ねぇけど・・何でだよ。」
おもむろに話すアキラの言葉に、ヒカルは少し動揺する。
アキラが近付くと何だか心臓の鼓動が早くなる。
自分がどんどん違う人間にかわってしまうかのように・・
堪らず視線を泳がせると
「だったら・・東京タワ−に来て欲しい。今日の夜9時ぐらいに・・」
真剣な眼差しで言い放ち、白いコ−トを翻しながら帰宅していった。


そして残されたヒカルはアキラがいなくなってほっとしていた。
(煩いドキドキがおさまったけど、あいつ何のつもりだ?)
ふとそんな物思いにふけながらゆっくりと町をすり抜けてみると
(そうか・・今日はクリスマスだったのか。碁会所に急いでいたから全然気が付かなかった。)
硝子越しのショ−ウインドウに、お揃いのロケットが飾ってあった。
(あいつの趣味はさっぱりわからないから、こんな時困るよな。でも何となくこれをあげたい。
ええと財布は・・っと)
お金を確認して買えると思い、入店してラッピングまで頼んだ。


間も無く9時に差し掛かった時
「進藤遅くなった。呼んだ僕が遅刻だなんて済まない。」
「いいんだって。俺が早く着いたからこうなったんだし・・」
「そうか・・。」
「此処から見る町って何だか綺麗だな。沢山の光が闇夜を照らして、
其処に確かに人は住んでいるって教えているんだから。」
しかも今日はより鮮やかに、華やかにそれを感じる日。聖夜の夜。
誰かが誰かと過ごして、寒い冬を温めあう日。
その光景が目に浮かぶのに、一番見晴らしの良い展望台にアキラは誘っていた。

「本当は自宅に呼びたかったけど、進藤方向音痴だから心配で・・」
「何だと!!そんな事はねえよ。お前の家が田舎すぎなんだよ。都会のくせに・・」
「閑静な住宅地だからよ。父の趣味で囲碁に最も適した場所に・・」
そして言い合いになりかけたが、ヒカルのポケットからプレゼントが落ちてしまった。
それをヒカルより先に拾ったアキラが

「もしかして・・これ僕に?」
赤い包装紙に包まれた贈り物。
それのリボンに挟まっていた羽根の柄のクリスマスカ−ド。
其処には
“塔矢・・メリ−クリスマス。これのお揃いは俺が持っているから”
と短文で書かれていただけだった。

真っ赤になりながらアキラを見るヒカルに
「ありがとう・・進藤。そうだ僕からもあるんだ。」
そっと近付き、ヒカルの頬に周囲に気付かれないような微かなキスをした。
そしてヒカルの手に包装紙を破いて手袋をはめた。
黒い紳士用の手袋がアキラからヒカルへの贈り物。

「高そうなものだけどいいのかよ。塔矢。」
「良いんだ。気にしないでくれ。それより進藤・・雪が降っている。」

しんしんと天から降っている雪に、アキラはヒカルの肩を抱きながら指差す。
室内での事だったので寒くはない。
それ以上に二人だから温かい。

恋人達のささやかな休息。


本当に幸せな時間だった。
まさかその一か月後あんな事がおこるなんて、信じたくもなかった。

「塔矢くん!!進藤君が交通事故に遭ったって。今病院から…。」

知っている。だってそれは僕も居合わせた。
どんなに後悔しても…もう巻き戻せない。
もう彼には会えないのか…





意味深な新作です。
これは短編の『羽根』を原案と、
いつぞやの日記に書いた案のものをミックスしました。
初のアキラ視点での連載予定です。