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『追って来い!』

事件FILE10:太陽(  アポロン  )の 光―後編―






佐為のすそをしっかりと握っている緒方警部がいた。

「進藤の変わりにオレが平安に行こう。 佐為さんと一緒に…」

「ご好意はありがたいですが私は、別にあなたとは…。」

「いや、遠慮はいりませんよ。」

「遠慮じゃなくて…」

すったもんだのやり取りをしている似合いそうで似合わなそうな二人。

「そんなことしているl暇はないですよ。」

伊角さんの一言で皆に緊張が走った。



佐為が行ってしまわないように、ヒカルは佐為の手をきつく握った。

ヒカルが行ってしまわないようにと、アキラがヒカルを抱きかかえるようにする。

緒方警部は、すかさず佐為を抱きかかえた。

皆が、そんな彼らにしがみ付き、塊のようになった。

「大きなかぶのお話みたい」

「そんな悠長なことやないぞ。」


そう言っているうちに、近くのお寺の鐘が微かに地下の一室に響いてきた。

五つ目の鐘の音が鳴り終わる時、ヒカルは片手で、絵馬を掲げた。

ヒカルの前髪が絵馬に反射し、きらきらと光る一筋の光線が、 石版の最後の穴を照らした。

石版に文字が浮かんできた。

― すべての鍵が揃った。 太陽と地の交差する時に… ―

石版から発する光が、地下室に満ちて、はじけた。

そこにいた全員が思わず目をつぶった。 体が揺れるような衝撃。


やがてそれが納まり、静寂が… 


恐る恐る目を開けた人々は、全員が欠けることなく、そこにいることを確かめた。

「うまくいったんだ。 みんないるじゃないか。」

「いやまてよ。 ここは?」

そういいながら、アキラは、見慣れない林の中を見回した。

その時、麗しい落ち着いた女性が、傍に来た。 十二単のすそを翻し、アキラの傍らに立った。

「私の願いが叶いました。 ほんの一時の喜びです。 アキラ殿。 とても立派に大きくなられて…。」

涙ぐむ雅な人に、いつの間にか現れた虎次郎が言った。

「明子姫。 良かったな。 ところで、ここは、平安の世界。

そなたたちは全員がかたまって、この地へ移動した。

桑原老には、体に差しさわりがなければ良いが。」

「いや。 老体には少し堪えたが、孫娘のこととなればのう … そんなことは言っておれんよ。」


それから、虎次郎が皆に向かって言った。

「皆の思い、願いが千年の時の流れを動かした。 いや、人の一念とは、すばらしいものだと思う。

しかし、お前たち全員がここで暮らせるとは思えん。 どうです。 明子姫。」

「そうです。 皆さんは、千年先の世界に住まう人々。 佐為殿はこの地にも千年先の地にも共に適応できる方。

ですから答はひとつしかございません。」

「折角ここまできて、佐為と別れるなんていやだ。」

  ヒカルは、佐為を離すまいと必死だった。 そんなヒカルに明子が言った。

「佐為殿は今のままでしたら永遠に年をとらないのです。  このまま、千年先の地で百年たったら、どうなります。

佐為殿はひとりぼっちです。」

「じゃあ、どうするの?」

あかりが聞いた。

「佐為殿に人としての生をもたらす。 千年後の地で。  それしかあるまい。

そもそも、その試練が千年の呪いの意味だった。 しかし、それは犠牲 なくしてはできない。

今、犠牲となるべき太陽を皆の力で、押しとどめるなら、 佐為殿には別の試練を耐えてもらうしかあるまいな。」

「別の試練? どんな。」

「そうだなあ。」

虎次郎は腕を組んで少し考え込んだ。

「これならどうかな。 佐為殿には、 一月のうち半分を平安の御世で奉仕活動をしてもらうというものじゃ。」

「ヒカルが、ここにいる皆さんと今までどおりに暮らしていけるなら、 私は、喜んで、それをお受けいたします。」

佐為は言った。

「ねえ。 佐為。 奉仕活動って何するのかなあ。」

「ここから、京の町を見渡せる。 見てみよ。 白河の流れの先にも。 親をなくした子ども、病を得て倒れる人々。

  京の町からはみ出た人々だ。 その人々の世話を手伝ってもらおう。 佐為殿にしかできぬ慰めをもってだ。」

「私は鬼の血を持つとして厭われてきた。 あそこにいる人々の気持ちが分かります。」

「佐為は一月の半分は、前みたいに佐為神社にいられるの?」

ヒカルは恐る恐る聞いた。

「人として、いられような。」

「では、決まりだ。 取りあえず、皆、元の世界に戻らねばなるまい。」

桑原老が言った。

「折角、千年前に来たんだ。ちょっと見物したいな。」

「土産が欲しい。 何かないかな。」

皆、安心して勝手なことを言っていた。

「これ以上長くいれば、元には戻れぬぞ。」

虎次郎が、少し厳しく言った。

アキラと虎次郎が向かい合い、同時に、陰陽の印を結び、瞑想した。 二人の祈りがひとつになる…


一瞬ののち、全員が、現代に戻った。

佐為神社の境内。 もう、すっかり夜が明けて、 朝の爽やかな空気が、神社を包んでいた。

全員が嬉しそうに、お互いを確認した。

「進藤がいれば僕は母との別れも耐えられるよ。」

アキラは感慨深げに言った。

「一月の半分でもヒカルと一緒にいられるなんて。 私はなんと皆さんに感謝してよいやら。 しかも人としていられるなんて。」

佐為は、感無量の面持ちだった。

「オレ、これで我慢するよ。 でも、佐為がおじいさんになるなんてちょっとやだな。」

「私はあなたのおじいさまよりは見栄えの良い年寄りになると確信してますけれど。」

佐為は力をこめて、ヒカルに言った。

「ん? 今何気に失礼なことを言わなんだかな。」

桑原老が、孫娘の手をとりながら、聞いてきた。

「いえ、何も…」 佐為が答える。

「おじいちゃんは、おじいちゃんでいいんだから。」

あかりはそう言いながら、ヒカルを興味津々で見た。

「ところで、おじいちゃん。 お雛様のこと。 ヒカル姉さんは…。」

「そうだ。 対の雛二つ分。 進藤は、呪いが解けたんだ。 どうなったんだ。」

ヒカルはあかりの持っていた対の雛人形のひとつに手を伸ばした。

「オレがどうなったかみんな知りたい?」

にやりとするヒカルに全員が、佐為も含めていっせいに答えた。


「知りた~い。」





迷走してきたお話もどうやら大団円を迎えるようです。

皆さんは、どちらを望まれますか。

1.朝5時から夕方5時までを暮らした男雛

2.それとも夕方5時から明け方5時まで、佐為のため怪盗Hとなった女雛

最終回は、2種類です!

それぞれ、この先どんな展開になって、めでたしめでたしになるかは、 それぞれのページでお楽しみ下さいませ。