『追って来い!』

事件FILE06:冥王星( プルート )の聖典―前編―






あかりは佐為にお礼を言いに来ただけでなく・・
(怪盗Hさんと此処は関係あるのかな?)
・・と言う些細な疑問もあったが、 そんな事佐為の華麗さに見惚れて聞きそびれた。


全く美しさは罪である。


それより自分を案内した同い年っぽい少年が気になる。
「へぇ・・この近くの学校なのか・・。俺はこの階段のてっぺんから見えるあそこの学校なんだ。」
「そうなんだ。それじゃ幼馴染がいる場所だ。」
「俺が知っている奴かな?」
そう言うと笑いながら
「方言でかなり浮いているからきっと目立っているよ。」


(誰なんだろう?まさかあいつじゃないだろうな・・)
真っ先に浮かんだシルバ−ヘア−。
でも目の前の少女とは似ていないので却下!。
他愛の無い会話をして、あかりはお賽銭を忘れず帰っていった。


(可愛い子だな。あれが本物の女の子・・でも・・俺は可愛くないな。)


「ヒカル・・この石版の文字・・此処までを整理しましょう。」
「解読出来たのか?」
「ええ・・一応ブレイン担当ですから。『火星(マ−ズ)の囁き』・『天王星(ウラヌス)の疾風』・ 『金星(ヴィ−ナス)の琥珀』・『土星(サタン)の沈黙』・『海王星(ネプチュ−ン)の薔薇』・ 『木星(ジュピタ−)の棍棒』・・そして『月(アルテミス)の言霊』・・」


「そんなに奪取したのか・・俺・・。」
眠気とたたかいながらの怪盗業。
睡眠時間減少と体力の限界までのそれの功績であった。
「そうです。後は『冥王星(プル−ト)の聖典』と、『水星(マ−キュリ−)の横笛』、 そしてまだ見ぬ『太陽』と『地球』の標的。」
流石に二人がその正体すら分からないタ−ゲットもある。それがどう言った形なのかも・・


薄ぼけた石版に手を触れて、佐為は文字を自分の脳に焼き付けた。
暗い神社に激しい輝きが起こり・・
「“神への階段を彷徨う子等よ。扉を開く鍵は太陽と地球の・・・交差・・・”」
「何なんだ?それって・・」
そして佐為は能力を使い疲れたように眠った。


「しかし『太陽』と『地球』は何だろうな?それよりこの呪い・・何時になったら解けるんだ。」
ヒカルの夜の顔と朝の顔は似て非なる者
そっと自分の身体を抱き締めて瞳を伏せ、嘆く。


それから一週間後・・和谷と本田と一緒に図書館へ行った。
社会の課題を3人はグル−プになり、資料集めをするための事だった。
「進藤・・そこは世界史ではないって!!分かってんのか?」
「そうだぞ。締め切りが近いんだから早くしようぜ。」
二人の慌てぶりもわかるが、ヒカルも実際慌てている。


(何だってこんな場所に・・『冥王星(プル−ト)の聖典』がご丁寧に図書カ−ドつきで、展示されているんだ。)
かなりの者に読まれて薄く汚れている一冊の本。
黒い表紙で金色で【あやつられた佐近】と書いてあった。
それを早く手にしようと思ったら・・


「進藤君。僕が先に読むんだから・・」
「フク・・ちょっと・・」
後輩の福井雄太がヒカルの横やりをした。
そして今回は楽して石版に持ってこようとした計画が水の泡に・・
(また今夜も怪盗かよ〜!!)


「怪盗Hがなんだって・・?」
「普通の本を盗むんやって。しかしな・・俺思うんやけど、 なんで彼女いつも如何にもぱっとしいひんものばかり狙うんやろう?世の中豪華な宝なんて腐るほどあるで。」
「確かに・・それの極め付けが君のバッドだ。それに鑑識の桜野さんは興味深い事を言っていた。」
「なんや?」
「その狙われた物の共通点は、暗闇でも蛍光塗料なしで輝いている事と、一定の音波を出しているらしい。」
「ものがか?そんなことあるんか?」


蝙蝠のだす低周波に近い、誰かをよんでいるようなその音は人間には関知出来ない。
それを怪盗Hは感じてでもいるのか・・。
そんな二人の間を割って入った好青年が・・
「今回新人教育で派遣された伊角です。君達が噂の東西探偵コンビかい?」
「なんやて・・誰が漫才コンビやねん!!」
「誰も言っていないよ。そんな事・・」

(緒方さんが面白がる筈だ。この二人を観察して・・)

くすっと笑い万年筆・・かつての『月(アルテミス)の言霊』と手帳を取り出し、被害者フクに向き直った


「それよりこの本を守ってよ。僕もう寝るから。」
「そうだね。良い子は早寝早起きをしないとね。布団がずれているからかけ直してあげるよ。」
「伊角刑事。優しい・・お母さんみたい。」
そう言いながらフクはすやすやと眠った。


「慣れているな。子どもをあやすのに。君は。」
「兄弟がいるからね。それより稀代の怪盗さんに会いたいな。」
そしてほんのりと頬を染めた。何だか公私混同である。


(げっ・・!!どうして伊角さんが此処に?緒方さんとうとう左遷か?)
3人の遣り取りを見ていた怪盗Hは、そう心に浮かべた。
その噂の緒方さんは、猿と佐為の煩悩を払う為比叡山に芦原と登山していた。
しかし日頃から車での通勤。足腰が悲鳴をあげていた。
(これも修行なんだ。下山した時彼を伴侶にするための・・)

「はっくしゅん!!」


神社に大きなクシャミが木霊する。
(風邪でしょうか?最近夜更かしが多いですから・・)


怪盗Hは振袖を着付けての今回の盗みに、正直うんざりしていた。
綺麗な髪飾りが天井にあたって、その物音で3人に気付かれた。
「あれが怪盗H・・・何て美しいんだ。」
「そうやろ。でももうじき俺のものになるんやから。」
「何を言っているんだ。君はドサクサに紛れて・・全く!!」


違う意味で今回もピンチであった。