『追って来い!』

事件FILE05:月( アルテミス  )の言霊―前編―






「顔を見たと言うのは本当か?」とアキラの言葉の、前回を引っ張っていくと、
「俺の独断と偏見やし・・でもようあたるんやで」等と言う答えが返って来た。
今一掴み辛い社の反応に、流石のアキラもあっけにとられていた。
しかし今後も捜査に加わると言うその言葉は?
(怪盗Hとの関連性はゼロなのか?それとも・・)


そのアキラのピザがいつの間にか、ハンバ−ガ−に変わっていた。
しかも温かさが残っているもので、作りたてのものだった。
(彼女が?そんな馬鹿な・・でも、どうして?)


手に社の青春の全てを語っている、バッドを持ち頬を染めながら夜の街を駆け走る。
(慣れないミニスカ−トだから、下を気にしながら動かなくては・・)
そして漸く着いた神社の襖を、大きな音をたてて開けたヒカルの開口一言・・
「佐為・・社って奴が沸いて出たんだ。俺・・これから・・」


眠気眼で向かいいれた佐為。
テレビで【DEATH★NOTE】と言うホラ−系深夜番組を見ていて、瞳を充血させていた。
しかしのろのろと地下室に下りて、石版をもって無言で座った。
持ち帰った『木星(ジュピタ−)の棍棒』を、佐為は一振りさせて石版と共鳴させた。
するとまた言葉が浮かんで、そして刻まれた。が、・・


「聞いているのかよ。全く!!しかもバッドの持ち方が、どうしてなっていないんだ。」
妙な持ち方、例えるならゴルフをするフォ−ムの佐為に注意する。
しかし彼は石版を仕舞って、さっさと布団の中にはいって眠りについた。
聞く耳もたないと言わんばかりだった佐為の態度に、ヒカルは剥れる。
しかしふと、ヒカルはアキラの傍に置いてきた夜食に気付いたのかと・・
親友和谷にバイト先の、閉店間近に作ってもらったもの。
(らしくないな・・俺。最近やけにあいつの必死な顔が気になる)


「進藤・・そんでな。塔矢の奴、へましよったんや。お陰で俺は怪盗Hをこれからも追っ掛ける事が出来るさかいええんやけど。」
「違う!進藤。僕は彼女の先手を打つための、これは意味のある行為で・・」
二重に話しかけられ、ヒカルは日常的にも疲労MAXだった。
(でも二人は何故に怪盗Hに拘るんだ?世の中にはもっと事件は転がっているのに?)
そんな折、緒方が芦原に教えられた神社に到着していた。


「普通の神社じゃないか?こんな所が?何々絵馬に願い事を書いて下さい。ってこんなんで叶ったら警察は用済みだ。」
ぶつぶつと話すと、後ろから美青年神主佐為が現れ
「そう仰らずに書いてみてはどうですか。ものはためしですよ。」
美しい外見なのに、言う事は胡散臭いと思いながらも、自分の胸ポケットからオ−ダ−メイドの万年筆を取り出した。


(それは『月(アルテミス)の言霊』。使うものの精神力次第で書いたものが実現すると言う・・曰つきの)


でも緒方はそれによっての幸福は今の所訪れていない。婚期も逃し、仕事に追われている毎日。
最近では、猿顔の幻影に悩まされて、まさに踏んだり蹴ったりであった。
「やっぱり止めておく。良い男は自分で夢や理想を叶えるもんだ。お前さんもそうだろう?」
「ええ・・そうですね。神頼みより確実ですから。」
「しかし・・お前さんは綺麗だな。」と言いながら、緒方は佐為を引き寄せた。
自分も美形だと自負している緒方だが、佐為の浮世離れした美麗には感嘆を素直に述べた。
そしてあろう事か、緒方は佐為の紫の髪にキスをした。
(俺は男もいける口だったのか?でも・・惚れたかも知れないな。)


そうとは知らない佐為は
(これは早速ヒカルの出番ですね。しかし彼は私に何をしているのでしょうか?)と、首を傾げただけだった。
ヒカルの鈍さが、保護者の所為だと見て取れた。


「えっ・・何だって?緒方警部の万年筆?佐為・・冗談だろう。だってあれはお前が昔・・」
「私だってビックリしていますよ。薄幸の美少年伊角君に、幸福をと、英国留学にちなんであげた筈なんですから。」
宝の収集前に手放した、黄金色の程よい太さのペン。
「彼・・絵馬の一番の書き手で、俺覚えてるよ。不安を神社でお参りする事で晴らしていたのだから。」
「廻り廻って緒方警部の胸の中ですか・・。これは私達の幸運ですね。」
「何だかな・・」と、ヒカルは知り合いから奪取する不安に駆られていた。


緒方はシャワ−を浴びながら、今日の出来事を思い出していた。
薄紅色の唇の京美人。きっと和琴など嗜んでいるだろうと、そんな気品に溢れた美青年。
警察のPCの個人デ−タ−を検索して、佐為が【藤原神社】に最近現れた神主だと。
私用でこれを使った事がない。ばれたら減棒ものだった。


しかし過去は一切不明。そこにもミステリアスな魅力を感じて、緒方は歓喜にふるえた。
「おっとのぼせてしまうな。ビ−ルでも飲んで頭を冷やすか。」
そしてバスル−ムから上がると、冷蔵庫の扉にマグネットで一通の手紙が・・
「今度は俺の万年筆?何でまた?しかし昇進のきっかけを得られるな。そして彼に・・」


「なんやて・・緒方警部の安物のペンが、今回の可愛こ怪盗Hちゃんの標的やて・・」
「僕も驚いているんだ。しかし君のバッドより価値は在ると思うぞ。」
「何を言うねん。失礼なやっちゃ・・。でも負けへんからな。」
騒がしい高校生を摘み出したいが、緒方は二人にも期待していた。
(背に腹は変えられないからな。)


夜中の一時に、怪盗Hが出現した。
今回は白いドレスをはためかせて、ギリシャ神話の女神の如く月光に照らされていた。
(月の女神アルテミスのようだ。手に弓矢を持って・・)
(むっちゃ良い!!逆光で見えへんけど、絶対そうや。)
そんな無粋な視線をひしひしと感じて、怪盗Hは「こっちを見るな〜!!」と心で叫んでいた。


緒方のマンションの外階段を下りて、部屋にいる緒方を狙うと
(赤外線?猪口才な。全部見えてるんだよ。しかし熱帯魚・・綺麗だな)
すいすいと泳ぐ魚に注意がそれて、怪盗Hは後ろに待機していた冴木警部に気付かない。
一番まともに刑事をしていた彼が、怪盗Hを背後から羽交い絞めした。が・・
しかしすり抜けて、冴木は空気を抱いた。


そして引き出しの『月(アルテミス)の言霊』を盗ろうとしたが・・そこから噴出す白い煙。
「何・・催涙ガス。そんな・・」
涙で視界がなくなっていく。
カラクリマンションなのかと、愚痴を零したい。
絶体絶命の未曾有のピンチをむかえ・・