『追って来い!』

事件FILE04:木星( ジュピタ− )の棍棒 ―前編―






持ち帰った『海王星(ネプチュ−ン)の薔薇』の花粉を石版に落とすと、何時も通り言葉が浮かんだ。
青い光に包まれてその薔薇は真紅から群青色に変わり、


「青い薔薇・・変わっているのは俺と同じか・・」
「ヒカル・・知っていますか。薔薇は決して青くは咲かないんです。どんなに品種改良をしようともです。 これは植物の姿を借りているに過ぎない、本来は別のものです。だからヒカルはどんな姿でも・・私の可愛いヒカルですよ。」


帰って来て、今回の一件で落ち込んだヒカルは佐為の膝で顔を埋めて甘えていた。
そのヒカルの頭を優しく撫でて、佐為は5時を知らせる柱時計を見ながらヒカルを寝かしつけた。
零れるアキラとの進展の言葉を聞きながら・・


「それでだ進藤。僕は怪盗Hを寸前まで追い詰めた。でも・・」
「今日で何度目だ?その英雄談を話すのは。それに早く食べないと昼休み終わるぞ。」
うんざりするほどにアキラはヒカルに語って聞かせていた。
彼にしたらとても快挙で、天にも昇れる感動だったのでの言葉だったが・・


(知っているんだから。もう良いんだって・・。)
アキラとの口付け・・
ヒカルのもう一人は大胆で、正直制御出来ない。
暫くは動きたくなく、アキラとのもう一つの戯れを休業しようとしていたが、次の日・・


「おい・・転校生が来るらしい。何でも関西人で大手企業の御曹司で、甲子園経験があるらしい。社って言うんだって。」
今時そんな設定の人間もいるもんだと、話題に教室は包まれた。
そして教師に連れられ、白髪の転校生がやってきた。
その人懐っこそうな表情にクラスの女子は興奮していたが。


「塔矢アキラ・・俺はなお前より先に怪盗Hを捕まえるから覚悟しとき。」
いきなり叫び指でアキラを指し、アキラに激しい表情を見せた。
「「な・・!!」」
アキラは宣戦布告で表情を険しくしていたが、ヒカルはそれより転校生の肩に提げられた鞄に、 括られているバッドに視線を寄せていた。


(あれは『木星(ジュピタ−)の棍棒(こんぼう)』。何だってそんな粗末な扱い。それに彼は一体・・)


自分の事を追い掛ける意味が分からない。
そしてついでに席替えもしようと教師がくじ引きの箱を持って来た。
「公平にするために作った。だから不満は聞かんぞ。」と森下担任教員は言った。
そして次々と席が決まり、黒板にその結果が記された。それにより何と
「進藤を挟んで右が転校生。左が塔矢か。ストレス溜まりそう。」と揶揄が飛んだ。


(どうしよう。これも盗みの対象かよ。楽には通れないな。今回も・・)
汗と土が染み付き使い込まれ、スポ−ツ用品化したタ−ゲット。
(佐為に言ったらどんな反響が返ってくるんだろう・・)
溜息が自然と零れ、悩みの種が増えた事に更に落ち込んだ。


「進藤言うんやな。転校初日やさかいよう判らん事あるから、色々教えてな。」
アキラに向けていた顔ではなく、気安い友人に話すようにヒカルの肩を抱いた。


それを横で見ていたアキラはご立腹だったが、転校生を苛めるのはヒカルへのイメ−ジダウンになるから止めて置いた。
「ああ・・いいよ。それよりお前・・探偵なのか?」
「そうやねん。でもな。俺はそれだけやないねん。」
口が軽そうなのに、多くを語らない社に手強さを感じ取って、ヒカルは戦慄を覚えた。
(アキラと警察と・・そしてこいつか。どうしたらいいんだ〜!!)
そして例の如く、社の家に予告状が届いた。


それを手に取り、社は感激していた。
関西の本家では何かと不便だと、関東の別荘に通学の為移り住んだ社。
かなりの意気込みであるのは見て取れた。
「塔矢・・何でか分からんが俺の持ち物が標的だって。お前の出る幕無いで。どうするんや・・。 俺はお前に助けを求めへんし。」
自宅には緒方達だけ招かれ、アキラは社の希望で蚊帳の外だった。
そして自分の部活人生の相棒を手にとって、真剣な面立ちで「絶対に奪われへんからな」と呟いた。


社の目的とは一体・・
アキラは無事怪盗Hと相対する事が出来るのか?はたまた出来ないのか?


しかしめげず、独自のル−トでアキラは参加を試みるらしく、その姿はピザ屋の販売員だった。
アキラは探偵の極意。
【忍耐・尾行・変装】と言う独自のモラルで動いていた。
しかも金銭など絡んでいない、ボランティアで最初っから関わっていたので、これは至極当然の行動だった。


(今日はどんな姿で君は現れるんだ。怪盗H・・。)
統一感が無い身形に、アキラなりに楽しみでもあった。
しかも前回に手元に残った怪盗Hのカチュ−シャが、アキラの机に眠っていた。


「でも転校生は僕を敵視してそう言っているのか?はたまた怪盗Hとなんら関係が?気になるな。」
面白くは無いが、このまま引き下がるアキラではない。


そして怪盗Hが、深夜2時に現れた。ファ−ストフ−ドの女子従業員制服で・・