『追って来い!』

事件FILE03:海王星(ネプチュ−ン)の薔薇―前編―






明くる日佐為は式神を桜の花びらを火にくべてつくり、一通の切手無しの手紙を送った。
そのナセと言う女形式神と、イイジマと言う男形式神は連れ添って越智家に配達した。


「この僕の屋敷のセキュリティは完璧だ!例え稀代の美少女怪盗Hであっても・・」
『土星(サタン)の囁き』を返却する為だけに、ヒカルは向かったのではない。
ヒカルの記憶力で次の標的(タ−ゲット)、『海王星(ネプチュ−ン)の薔薇』と言う越智家温室に咲いている希少価値な薔薇を、 ついでに奪取しなくてはならなかった。


刺には気をつけろと散々言われたヒカル。その訳を聞くと
「あれには幻覚作用があります。ですのでくれぐれも取り扱いには気を配って下さい。」
「げっ!!そんな危ねぇもの任せるなよ。」
「でも私は生憎貴方ほどの運動神経を持ち合わせておりません。でも貴方にはない知性を持っています。だから宿題の事は私に 安心して頼めばいいのです。」
「それ褒めてんのか?それとも・・」


またしてもアキラの眉間の皺が増えた。
可愛らしい便箋にご丁寧にハ−トのシ−ルが張ってある手紙に、困惑状態だった。
(何だってこんなファンシ−な趣味なんだ?それに植物を狙ってどうするのかな?園芸にでもするつもりか?そんな事はどうでもいい。 僕は今回は出来れば遠慮したい。)


アキラはこう見えてアレルギ−持ちだった。
所謂花粉症で度々通院してカルテを更新させていた。
正義の心か・・それとも身体を考えて倦厭すべきか?
それで頭を悩ませていたが、今更乗りかかった船を降りたくないと腹を括る。
(当日はマスクをして温室にお邪魔しよう。)


それは偶然が引き起こした。


ヒカルは保健体育の授業中、本田が投げたボ−ルで頭をうって保健室に運ばれた。
何時ものヒカルならありえない事だったので、アキラは図書委員なのにも関わらず自分がヒカルの付き添いを名乗り上げた。
日頃は遠巻きだけしか許されないアキラの存在を、ヒカルの中で焼き付けるチャンスだった。


中腰になってヒカルを姫抱きにして
(君は軽いね。あんなに大食漢だから体重もそうかと思ったけど…)
不謹慎な事を考えているアキラに負けずに
(最近寝不足だったから丁度良いや!)
と、すやすやと眠りこけて彼も別の意味でマイペ−スだった。


「それでは今回もお願いしますね。」
「わかったけど毎回こんな衣装どっから仕入れているんだ?それにわざわざ禊まで・・」
「何を言っているんですか。貴方は素材は良いのですから、私もコ−ディネイトのし甲斐があるし、 無事帰還をお祈りするための禊は儀式ですよ!!解っていますか?」
これは幾らなんでも趣味だろうとヒカルは呆れていた。
巫女の姿ではなく、今回はゴスロリ路線でいくらしい・・


「佐為・・あいつってこんな姿を見ても嫌わないかな?」
「えっ・・何ですってヒカル・・」
「別にいい。何でも無い・・。」
意味深なヒカルの態度に、長年保護者だった佐為は勘が働き・・
(ヒカル・・誰かに恋していますね。隠したってわかりますよ。耳が茹蛸ですからね。)


「塔矢探偵・・何ですかその装備は?」
「芦原刑事気にしないでください。これは僕の意地ですから。」
「でもアキラ君。それはどうかと思うが・・。まあ君がそれでいいのなら文句は言わないが。」
緒方は黒いジャンパ−に、手袋に、そして眼鏡に、何より耽美なアキラに不似合いなマスクに溜息が零れていた。
本人が必死なのは理解出来るが・・


「君を何がそうまで駆り立てるんだろうね。俺はそれが解らない。」
「良いんです。これは僕の男を証明する賭けなんです。」
「塔矢探偵・・俺にはさっぱりだよ。」
「芦原刑事はその手には疎そうだからきっとわかりませんよ。」
「そんな事はないと思うぞ。市河婦警にぞっこんだし・・」

面白半分で言った緒方警部。
しかし言われた芦原刑事はたまったものではない。
何か反撃しようとするが

「もう!!緊張感が無い!!」

とアキラが喚いたので止めて置いた。