『千飛んで一回のプロポ−ズ!』ACT:9<ティ−チャ−>




誰も呼んでいないのに出番欲しさに頑張る大人がいる。
それは若年層の作品に対する努力と言える。
しかし判断を誤ると返り討ちに遭う事もある。


「これで一安心だ・・」
汗を掻いて何かに満足して粋がっているアキラ・・
それを拍手で和谷は歓迎していた。
そして二人の外国人の居場所は、この部屋ではあるのだが押入れの中に閉じ込められた。
ご丁寧に【猛犬注意!火気厳禁】と襖に貼ってあり、痛々しい限りだった。
しかし佐為は無慈悲ではないので、ちゃんと扉を開き
「反省したら許してあげますよ。」
と譲歩していた。
「良いのかよ。こいつらに甘くして・・」
「私は良識が高いんです。貴方と違って・・それに過去の借りを返したいもので・・」
何とも易い返し方なのかと、岸本は煎餅を齧りながら心で呟いていた。


「ヒカル・・単刀直入に聞きますけど好きな人は誰なんです。」
佐為は帰りそうどころか、客が増える状況を変えるために本題へと繰り出す。
それをあかりとメール交換中だったヒカルが手を止めて・・
「言えないよ。絶対に・・だって叶わないもの・・」
瞳を伏せてヒカルは兄に答える。
「どう言う事だ。進藤?」
優越感が萎え始めたアキラが聞き出そうとするが・・
「アキラ坊や。それはデリカシ−が足りないと思うぞ。まあ女心が分からないお前に言っても無駄かも知れないが・・」
「何を・・僕は完璧ですよ。加賀先輩。」
「だったらいい男がより取り見取りの状態で、ネル●ンじゃあるまいし選べとお前は簡単に言えるのか?」
最近ではあい●りだと何だか伊角は突っ込んでみたかったが、それは下らない揚げ足取りだと思い止めた。
そんな一触即発のム−ドを壊す呼び鈴が・・

「ヒカル・・緒方先生が家庭訪問ですって・・」
そして突然緒方がスリッパの音を立てて、客間に登場した。
手には高そうなブランドの鞄を提げて、白いス−ツで和室に上がりこみ座る。
総計10名の男子が犇めき合っているが・・
「俺は心優しい教員ゆえ、不純異性行為だと誰にもチクらないから安心しろ。」

大人な部分を見せるが、彼がそんなに何のメリットも無く此処にはいない。
若い者達の三角関係。
いやこの場合何角関係か分からない関係を傍観しに、進藤家と塔矢家の間にでかい車を横付けにして此処にいる。
でも一応教師をするつもりらしく、煙草は車の引き出しの中に置いて来た。

「緒方先生・・そう思いませんか?」
「何が?」
話の途中で振られても、緒方には何が何だかさっぱり分からなかった。
「ですから進藤はそろそろ僕に秘めた恋心をぶつけるべきだと・・」
緒方の眼鏡越しで、アキラは何かを訴えていた。
(やばい・・俺。変なタイミングでもしかして乱入した?)
アキラの講釈は兎に角長いから、緒方自身の中で要注意人物だった。
確かに賢いし美形だし、何より失われた闘魂が何とも好感度がある。
しかしそれを凌駕するアキラの激情は、台風の目のような印象である。

(でも憎めない・・よし!)
「進藤。お前はカッコイイ男は好きか?」
「うん。勿論好きだよ先生。」
緒方は自分の手帳の一ペ−ジを破り、男の名前と赤鉛筆でチェックを入れた。
「と言うことで、社と和谷は除外。」
二人は激しく抗議したかったが、相手は一応先生なので我慢した。
「じゃ年上か同い年・・年下ではどれが良い。」
「年上だよ。頼りになるもん。」
そして無情にもアキラと押入れで顔を出していた洪(ホン)は除外された。
「だったら熱血系と冷静系どっちが良い。」
「冷静系。俺・・私はお転婆だから・・」
加賀と不真面目そうな高(コ)が省かれた。
「根暗な冷静系か、思いやりがある冷静系。どっちだ?」
「思いやりがある方だよ。本当に・・」
赤鉛筆が伊角と岸本を掻き消した。


「最終質問だが思い人とはリスクは大きいか?」
「凄く大きいよ。だって本気で無理なんだもの。」
そして閃いた緒方の結論は・・!!

「教師の俺か、兄妹の佐為君か・・そうなんだな!」



何時の間に自分も導入されているのか・・
一気に男子の視線がヒカルを射抜いた。
公平な誘導尋問で、明らかになるヒカルの思い人。
それは・・


「絶対言わないでね。秘密なんだから。」
その微妙なリアクションは何を意味するのか・・
特に最後の項目に残った2名は動揺していた。
しかし隣家と客間が筒抜けの構造だったが故、ヒカルは隣家を見詰めた。
そして窓を開けて塔矢家の庭先で盆栽の手入れをしている者に頬を赤らめる。

「私はね。塔矢おじさんが好きなの。ずっと前から・・」

それにダメ−ジを受ける者達。
アキラは自分の身内が恋敵だと気付かないまま同じ屋根の下で過ごしていた。
それが何とも言えない苦悩を生む。
厳格で年上で優しく男として尊敬出来る父親。
しかしアキラ以下9名は挑まなくてはならない。
例え部隊が壊滅を辿っても・・


(お父さん。僕の前に見えない壁があるんです。僕はどうしたら貴方を倒して進藤をモノに出来るのか分かりません。)
それとは正反対なヒカルは恋する乙女状態だった。
(言ちゃった。でも・・・)
何だか含んでいるヒカルに誰も気付かなかった。



ついに念願の緒方さんが華麗に乱入しました。
正念場のアキラVS父行洋の戦いが始まるのか?
不明です。