『千飛んで一回のプロポ−ズ!』ACT:7<スト−カ−>




今の今まですっかりと忘れられた数々の怪事件。
しかし被害者が今一反応が鈍い為、素通りされ続けた。
だが危険はもう其処まで近付いていた。
本人の都合を考えずに・・



「加賀先輩・・それは下心込みでの事ですか?」
静かに青き嫉妬の炎をたぎらせ、質問していたアキラに・・
「当然!進藤は可愛いからつい手を付けた。」
「付けてどないするねん。女の子をそんな軽い気持ちで扱ったら罰当たるで。」
そう言った社を横目でずっと見ていた和谷は・・
「関東人なのに、何故社君は関西弁をずっと喋っているんだ?」
そんな切なる疑問に答えたのは、佐為だった。
「彼は関東人の父親と関西人の母親を持っているんだよ。」
「つまりはハ−フって事?」
非常にナイスボケな和谷の発想で、伊角は困惑した。
(確かに塔矢が恋敵に置いていない理由が分かる。)
純粋過ぎて出し抜こうと一切考えていない雰囲気。
恋愛の一歩は交換日記から・・等と信じてそうな彼。
『きっとどこか抜けているんだ・・』とも心で付け加えた。
そして漸くたまごっちを放したヒカルが会話に混じる。
「社は俺の命の恩人だもんなぁ・・それと塔矢にとっても・・」
またしても意味深な単語が、今度はヒカルの口から零れた。
それをすかさず訳を聞き始めようとした時・・



「おい!!誰かこの家を監視しているぞ。」
壁の向こうからの視線。
気配と言うより動物的感覚で、加賀がそう言った。
湯飲みで茶を啜っていた岸本が、相槌をうった。
彼らはこう見えても【私立囲碁学園】の生徒会長と副会長。
憧れや恨みをかって、殺生沙汰になる事もある。
何所の殺し屋が束になっても防御出来なくてはなるまい。
だから防弾ジョッギを着付けている。
そして自前の武器も最小限に携帯している。
だが未だ嘗て使用されたことは無い。
(当たり前とちゃうか?何か勘違いをしとるだけやから。)
社清春が心で突っ込んだ。



「この家の辺りは以前から、ヒカルを狙っての変質者が多いので有名だ。私も過去数名葬った。」
腰の部分に伸縮自在の鞭が仕込んである彼。
佐為が誇らしげに言ったが、この面子では抜け駆けぽくって嫌味に聞こえた。
「進藤・・僕が絶対守るから安心してくれ。」
ヒカルの手を取り、握り締めながら決意を露にした。
キラキラと輝くアキラの瞳に困惑したヒカル。
「まあ・・一応期待している・・」
義理でそう言ったヒカルにアキラは不満を感じた。
「君は僕を本音では信じていないだろう。どうして何時もそうなんだ!」
そして守る相手に自ら暴言を吐くアキラに・・
「だって体育の成績が1の人に何を期待するんだ?因みに俺は5だぞ。」
意外なアキラの欠点が暴露される。
彼は典型的な運動音痴で人生を突き進んでいる。
逆上がりも出来無い上、10メ−トルも泳げない。
以前社が小学校の山登りで遭難した2人を助けた。
社にとって本来は片思いではあったが、好きなヒカルの為のことだった。
しかしヒカルとて自力でどうにかなったが、アキラが兎に角大変だった。
だがそんな彼が驚異的な運動神経を発揮する時がある。
それは目の前の少女に関する事柄だった。
「信じてくれ・・僕は真剣に君を守りたいんだ。」
いつもより真面目なアキラにヒカルは・・
「なら少しだけ期待してあげる。それで我慢してよ。」



進藤家の庭で物音がする。
がさがさと草木を掻き分ける音が・・
それを男子7人が取り囲んだ。
四面楚歌だった赤ジャンパ−の2人組みは一網打尽になった。
「変質者の割りに派手な格好だな。」
手にはデジタルカメラが握られており、何をしていたかが容易に分かった。

「進藤を盗み撮りか?ええっ・・!!貴様等!!」


兄貴風を吹かせた加賀の慟哭が木霊する。
そして岸本がフ−ドを外し、2人の正体を知る。
それは・・



「留学生の洪(ホン)くんと高(コ)くんじゃないか。ほら佐為お兄ちゃん。韓国旅行でもお世話になった彼等だよ。」
逆に懐かしさが込み上げて、学友のように接するヒカル。
赤くなる洪(ホン)は素直な性格。
その傍ら高(コ)はさり気無くヒカルの肩に腕を回す。
そんな二人をこの集団は、よく考えたら知っていたと記憶を辿る。
彼らの素性は【私立囲碁学園】に在籍している、韓国人の交換留学生。
日本の文学が目的で勉学中とは、世間を欺く仮の目的。
日本人進藤ヒカルに一目惚れをしてわざわざ海を渡ってやって来た。
そんな下心を知らないヒカル。



(進藤・・君は国際的なアイドルだな。僕も幻●さんのところで霊●派動拳をそろそろ学ぶべきか?)
恋敵が減るどころか増える一方になる現実をアキラは苦悩する。
でも退く事を一度も考えていない。
自分が晴れて進藤ヒカルを塔矢ヒカルに変えるきっかけを掴むまでは・・


彼の孤独な戦いはまだまだ続く。






男性ばかりでムサい空間に、紅一点状態のヒカル。
勘の鋭い人は韓国の2人の存在に気付いておられたと思います。
しかし本気で人物が混乱してきました。
次はこの2人の告白でしょうか?