『千飛んで一回のプロポ−ズ!』ACT:3<ハリセン>




男には超えなければならない壁がある。
くれぐれも隣家にある柿が美味しそうで攀じ登る壁ではない。
そう試練と言う名の壁だ。
これはそれを現在強いられている少年・・和谷の物語である。

いやそれは冗談である。
和谷は恋している相手のお願いで、自分の恋敵と手を繋ぎ歩く不幸さを嘆いていた。
(進藤・・お前が危機に陥ったら例え火の中、水の中、森の中。なか×8大変だけど助けるのに〜!!)
そう言いながら先に歩く進藤の背中にドキドキする。
うなじが幼くさらさらな髪が揺れていた。
その不謹慎さに頭を振って訂正をするが
(やっぱり可愛い!!こいつさえいなければ絶好の告白タイムなのに邪魔なんだよ!)
横の男子塔矢アキラを睨むと、逆にメデュ−サ顔負けの形相で睨み返した。
それはそうである。彼とて和谷が邪魔で性が無い。
廊下でのラブロマンを切望しているのは両名同じだから・・
牽制しあって、5の5→天元→5の5並みの空中戦に突入していた。
それを知らないヒカルは
「着いたぞ。保健室に。塔矢・・和谷くん。」
今正に2人の男達は上機嫌だった。
最初に名を呼んで貰った事で、優越感に浸る塔矢。
男のロマン”くん”付けで呼んでくれて萌えている和谷。
中々に2人のハ−トを掴むツボを心得ているヒカルは、天然悪女だった。
そして彼女によって扉が開かれ、消毒液のにおいが3人を迎える。
白色の空間に存在する此処の支配者は・・芦原養護教員だった。
コ−ヒ−を飲んでデコレ−ションケ−キを一人で食べていた。
口の周りにはクリ−ムがべたべたと付いており、そんな恥ずかしい姿で生徒と会話しようとする。
「どうしたんだい君達・・今は授業中だろう?」
そう言って首を傾げるが
(そう言う先生も今は仕事中だろう?何を寛いでるんだよ。)
と3人の心がシンクロした。
「かくかくしかじか・・」
ヒカルが塔矢の事を話すと、芦原は広告の裏を細かく切ったメモ帳でそれを書いた。
しかしミミズの這ったようなお世辞にも上手く無い字に・・
(どうでもいいがペン字を習わせたい。)
几帳面な和谷の意見だった。
彼はこう見えて習字の有段者だったからだ。
「へぇ・・そうなんだ。それは塔矢君の方が正しい!」
「何でですか?先生。」
「好きな子を誰にも渡したくないのは男の純粋な気持ちだ。相手の全てを支配してあまつさえ独占する。うん!良い事だ。」
何だかかなりはっきりと言い切る芦原先生は2人の人物を浮かべる。
足元から頭上まで彼が盲目的に美しいと感じる同僚・・市河先生。
最近新任としてこの学園に勤ている国語教師。
笑顔が綺麗で彼の心にフォ−リング・ラブした。
何かとお近づきになりたくって努力するが彼女は緒方先生が好きだった。
緒方を見ては頬を赤らめ、落ち着きが無い素振りをする。
「男は外見より誠意だとは思わないか塔矢君と和谷君。」
生徒に何を言っているのか最早彼自身分かっていないが・・
「そうです。思うだけじゃなく行動が重要なんですよね。僕はこれでも進藤を956回口説いています。」
誇らしげに語る塔矢アキラは側にいる和谷に自慢する。
しかし和谷とて言い分はある。
「でも遣り過ぎて嫌われたら元も子もないから、俺は持久戦が大切だと思う。」
「はぁ〜?そんな事だから好きな子に良い人扱い止まりなんだ。君はお話にならない位恋敵として論外だよ。」
喧々ガミガミと口論する2人をヒカルは制した。
何所に仕舞っていたのかハリセンなる武器を駆使して・・
「煩い!ベッドで寝ている生徒がいるんだから静かにしろよ。」
そう言って眠っている者が寝返りをうってずれた布団を直す。
風邪だと分かる苦しそうな顔がヒカルを心配させた。
「おや・・彼は上級生の伊角先輩じゃないか?剣道部主将の彼が風邪だったらインタ−ハイはどうするんだ?」
【私立囲碁学園】は部活が盛んな事でも有名。
特に弓道では岸本・剣道では伊角・合気道では社と3人柱が存在する。
だからこれは由々しき事態だった。
「可愛そう・・部活のしごきがきつかったんだよね・・」
そう言いながらヒカルは伊角の汗で額にくっ付いた髪を直す。
まるで母性本能の塊の彼女の態度に

(男はやっぱり顔なのか・・ショック!!)


と芦原先生がそう思い

(進藤・・今度風邪をひいた時は看病してくれ〜!!)


と和谷のささやかな願望が

(伊角!後で処刑だ。僕の進藤に甘え寄って・・!)


と激しい憎悪をアキラは抱く。
思念渦巻く保健室に安息の場など存在しなかった。
そんな窓の向こうでは弱小サッカ−部が試合準備していた。
「今度は頑張ろうね水●君。僕も頑張るから・・」
「そうだな。風●!親父だけじゃなく大衆に俺達の凄さを見せ付けてやろう。」
と意気込みがはっきりと保健室まで聞こえた。

どうでもいいが犯人は誰なのか?

教室での彼等が解決しているのか?謎である。






良く考えたら私初のわやひかテイストかもしれません。
以前から書きたいとは思っていたのですが、断念した分成長したかも知れません。
ヒカルが好きな人は誰なのかが鍵ですが・・