『千飛んで一回のプロポ−ズ!』ACT:1<ビンタ>




「進藤・・僕と結婚してくれ!」
それが進藤ヒカルへ塔矢アキラの何時もの挨拶だった。
季節は春の暖かい環境下で桜が満開だった。
穏やかな太陽が人々を優しく照らし、その恩恵を肌一杯に人は感じる。
しかしそれは同時に退屈を及ぼすものとも言える。
その気だるさも手伝って不機嫌全開で眉を顰める者がいた。
「塔矢・・いい加減にしろよな。俺はしないって何度も言っているだろう!」
「何故だ?こんな必死な僕を見捨てるのか・・」
そう言いながら学ランに身を包む少年塔矢アキラは食い下がる。
この二人は家が隣同士の幼馴染。
和風に染まった外観が塔矢アキラの家。
洋風仕立ての雰囲気の家が進藤ヒカルの住居。
対極なそれに負けない位この二人も正反対な性格だった。

「見捨てるも何も・・お前TPOを考えろな。」
「・・TPO?」
そしてもう一つの日課であるヒカルの渾身の平手が炸裂した。
「今は授業中だ!先生や友達の前で俺に恥を掻かせるな!」
ひりひり痛む頬を摩りながらアキラは我に返った。
周囲の冷やかしと怒りに満ちた視線が何を意味するのかを・・
冷や汗を流しながら、しかしきっぱりと
「不安なんだ。君が誰かのものになってしまわないか・・そう思いませんか先生。」
アキラの質問を受けた緒方先生は自分に振られた難題に挑む。
「そうだな・・進藤はお転婆だが男女共に人気だからな。」
そう言い切った緒方先生に男子生徒からは相槌が。
女子生徒からは疑わしい腑に落ちない感情が向けられた。
これで緒方先生の株価が変動したのは事実だった。

そう此処は【私立囲碁学園】と呼ばれるマンモス校。

生徒数は推定1万人であり、埼玉県に存在する。
沢山の優秀な天才児・凡人・奇人・変人を育成し世に送り出している事でも有名だった。
校風は規律を重んじる部分が殆どだが、例外は多々ある。
教育方針がそれぞれ違う先生方が齎す統一性の無さが、変な場面での自由を生む。
特に緒方先生の授業は脱線する事で有名であり、それに拍車をかけている存在が塔矢アキラだった。
狙い済ましたように、座席が名簿で隣になった進藤ヒカルにラブコ−ルを送る。
黙っていれば多分クラスでNO・1のモテ男となっていただろう将来を棒に振り、唯一の恋愛対象を追い掛ける。
しかしそれは乙女的思想を持っている者でも迷惑なものだった。
「先生がそんな根拠の無い言葉を吐くから、こいつが図に乗る。止めてください!」
可愛いセ−ラ−服を着ているヒカルが噛み付く。
その真っ赤になりながら怒る姿に、アキラだけじゃなく男子名簿の末席和谷も頬を赤らめる。
ヒカルは自覚が無いが男子生徒の征服欲をそそる逸材だった。
普段は男勝りでも玉にみせる女の子がオ−クションで高値を弾き出す。
だから女生徒から嫌悪されているのかと思えばそうではない。
さばさばした部分が裏表がないと判断され、逆に好印象を与えていた。
緒方先生の眼鏡は曇ってはいない証拠だった。
「何を言い出すかと思えば・・毎日放課後に告白される事が日課な君がそれを言うのか?」
「お前の言っている意味が分からない。」
「古風に下駄箱にラブレ−タ−を詰める男達を僕は知っているんだぞ!!」
そう言いながら周囲の男子に恨みを込めた視線を投げかける。
それとリンクされたくない者は視線を泳がせる。
しかし人間は何所か嘘がつけない生物で、挙動不審な素振りで真実を語る。
中にはアキラに後で何されるか分からないと、逃走手段を考えている陸上部部員も居た。
それほど執念深いアキラの思い人に、愚かだと知りつつも恋する気持ちを捨てられないのは男の性か・・
「下駄箱には何時も靴しか入っていないぞ。」
そのヒカルの発言に逆襲の男達がアキラを睨む。
根拠は無いが誰かが捨てたのは確かで、その誰かが凡そ予測がつく。
女子が好む便箋を文房具店で必死で選んだ努力。
誤字脱字が無いように、普段まっさら同然の辞書を頑張って引いた苦労。
ヒカルが手に取るまでの動悸息切れ。
それを台無しにしたのは同じ空間で勉学に励んでいる目の前の男。

「塔矢・・お前俺達の手紙どうしたんだ?」
別に起立!礼!など日直が言ってはいないのに、一斉に男達はアキラに迫る。
ずんずんと真ん中の席のアキラをド−ナツ状に取り囲む。
賢い女子は窓際で非難していた。
ヒカルを背中で守りながら・・
「何もしていない。まさか君達は僕が捨てたと思っているのか?」

「そうだよ!!お前以外そんな事をする奴がいるか!!」


隣のクラスにまで届く大声が多重音声で放たれる。
しかしマンションの住民よろしく『ちょっと煩いわよ!!』等を言ってくる気配は無かった。
緒方先生の授業はこんなものだから、今更何を思っても馬の耳に念仏と諦めも入っていた。
それを物語っているのは、黒板の端に【何があっても動じるな!】と前もって書いてあるのがいい証拠だった。
「僕は逆に君達が進藤にO・Kされやしないかとやきもきしていた位だ!!言い掛かりは止してくれ。」
真剣に言い切るアキラの態度に男子達は
(だったら誰が犯人なんだろう?事件の匂いがぷんぷんする。)

かくして命名【進藤ヒカル嬢ラブレタ−盗難事件】の犯人探しが始まろうとしていた。
名探偵コ●ンや金田●少年が白ける事件が・・






文章短めに更新して行く予定の作品です。(当社比1/2)
キャラクタ−の年齢が合っていないと言う突っ込みは無しです。(本人が分かっておりますから)
思い付きで書いた分、他作品との距離を感じますが頑張ります。
アキラファンの方には申し訳ない作品で、不愉快だと思われたら回れ右してくださいね☆