『♥エンゲ−ジ♥』☆第一話☆






進藤ヒカルは超貧乏だった。


いや正確に言うと、同居人がそれの原因でありヒカルは巻きこまれただけだった。
最初は中流家庭の中に組していたのだった。
物資も経済の上でも整った全てが其処にあった。
しかし現在は環境が悪い。

もともと身体が弱かった母親は、病院で闘病中。
どこかのネタではないが、やつれてベッドに縛られている。
「佐為…お兄ちゃんとしてヒカルを守るのですよ。」
椅子に座ってリンゴを剥いていた佐為は
「大丈夫。明子お母さん。ヒカルを立派な淑女に育てて見せます。」
兎型に切ったそれをフォ−クで刺して、母親の口に運んだ。
美味しいと微笑む母親だったが、共に得体も知れぬ不安も過ぎった。
(私が生活習慣病で寝込まなければ、こんな気分になる事もなかったのに…)


父親は単身赴任中であった。
旅行会社の経営で切磋琢磨している一家の大黒柱。
近年は感染病や、飛行機事件が多くて赤字を抱えている。
しかし口が上手い父親は多くの旅行者を得ていく。
「ヒカル。お前はどこの国が行きたい?」
「ここ。」
幼い指先が指した場所は【東京都】
正夫は娘が現在地を言い当てたことで、別の意味で感心していた。
きっと迷子の心配はないと。
しかしその父親が一ヶ月前から行方不明になっている。
原因は不明だが、兄妹はひょっこり帰ってくるだろうと心配していなかった。
仕事ばかりで家族サ−ビスに乏しかったつけであった。


その結果必然的に其処に残されたのは
「佐為兄。また通販で何か買ったのかよ!!」
「いけませんでした?ヒカル。ス−パ−出刃包丁なんてス−パなんですよ!」
「どうするんだよ。貯金は下4桁のゼロしか無いんだ。」
「高枝きりバサミまで付けてもらったんです。いいじゃないですか。」
「だぁ〜から。それが無駄遣いだって言うんだ。」


金銭感覚が乏しい長男佐為のために、進藤家は赤字を抱える。
例えるなら修学旅行で持ち金は此処まで!
っとしおりに記載されて決められているのも関わらず。
平気で余分を持っていって大量に買っている兵(つわもの)。
昔から流行のものが好きな彼は、TVや雑誌で見たものは絶対試す。
衣食住問わずそうするから、一般的な感覚のヒカルが困る。
最近の大きな買い物はデジタル放送対応大型TVであった。
家のつくりが頑丈でないので、軋んでいるのにも関わらずお茶の間の中心にある。
住人よりも態度がでかい。
それだから正直ヒカルの趣味は貧困の道を走っていた。
「今ならク−リングオフもきくはずだ。だから返そうな。」
「いやです。ヒカルのケチ!!そんなんでは嫁の貰い手は無いですよ。」


長女のヒカルはこう見えてもモテている。
交際を幾人もの殿方にされているが、今はそれに感けている場合でなかった。
ボロボロの一戸建てをしっかりと支えないと明日はない。
今も内職の手を休められず、ため息を零している。
(明日までに200枚の宛名書きをしなければ。とほほ…)


そんな進藤家にけたたましく電話が鳴った。
流石に経済的に大変だからと、IP電話は却下されてアナログ回線。
それを耳に当てたヒカルは
「はいもしもし。進藤です。え?政治家の搭矢議員の配下??」
「そうです。冴木と申します。何も投票してくれと催促ではないです。」
「当たり前だ。俺は投票権はない。声を聞いて分かるだろう!」
「はい。とてもお若い澄んだお声で…。」
「一体なんだよ。」
「決まったんです。搭矢議員の子息の婚約者に…。」


搭矢行洋議員は厳格なイメ−ジがある。
その手腕は凄まじく、どんな困難な口論でも一喝して速やかに解決させる。
しかしその反動で一人息子には甘く、色恋に疎い息子におせっかいを焼いていた。
その条例が『搭矢アキラ婚約者規約』であり、様々な候補が絞られた。
だが中々アキラの心を理解出来る者は現れず、行洋は全国で探し回った。
その結果がヒカルだと言うが…
「何の面識も無いのに、いきなりそんな話を振るなよ。俺には迷惑だ!!」
TVでは何度か見たが、澄ました顔のおぼちゃまだった。
気の知れた友人も出来なさそうな…


「大体なんで俺なんだ?白羽の矢が刺さったのが!!」
「それが運命ですっと、行洋様からの伝言です。」
今日は大凶な日だとヒカルは思った。
丁重にお断りしようと頑張ったが、この法律は破ると罰金らしい。
赤字でどうしようもない進藤家には選択の余地が無い。
それに…
「もう少し裕福な生活を約束します。」と冴木が言った言葉で
「お願いします。愛くるしい妹を手放すのは惜しいですが、 背に腹はかえられません。大丈夫です。花嫁修業はばっちりです。」
と兄が割って入って事態は悪化した。
普通の兄ならこんな非常事態を何とか回避してくれる。
しかし佐為はそうではなかった。


「ヒカル。これはチャンスです。このままでは貴方は独身のまま。 だからこの話は素敵なことです。」
「でも胡散臭いじゃないか。しかも16歳で見合いなんて…。」
「私もそう思います。でも破れば明子お母さんに迷惑が掛かります。」
「そうだな。別に話に乗ったからって気に入られる事ではないもんな。」


そして進藤家は搭矢家の管理下として置かれ、兄妹は搭矢家へ…