アイドルアキヒカ第3話「こんな馬鹿げた出会い★」



*このお話はパラレル要素盛り沢山です。パラソル(洋傘)では決して無いですのでお間違えのないように。よく考えてお進み下さい。


絶え間なく鳴り続ける電話。
対応に追われる社員らしき人物達。
しかしその服装の統一感の無さに、自前の背広を制服代わりにしていると言う印象を与える。
中にはラフな格好を洒落込んで、手帳片手に書き込んでいる者もいた。
何所か小汚い場所だが、そこでほくそ笑んでいる人物がいた。



コ−ヒ−を別の女子社員に淹れて貰い、甘い微笑で感謝を浮かべフェミニスト全開で接していた。
だが用件が済んだ彼女が去った後、また思い出した様に含み笑いを始めた。
(こんな強烈なヤツのマネ−ジメントは美味し過ぎる。何と言っても性癖が・・くっくっく・・)
白いス−ツに身を包み、煙草を吹かしながら心の声を露にしていた。
その時デスクの上に設置されている、自分専用の電話ではない所の受信を知る。
その彼の胸ポケットでバイブ機能と共に、【Get Over】の着信メロディ−が鳴る。
そしてそれに気付いた彼は、煙草を断熱ガラスの灰皿に預け
「はい。海王俳優協会の緒方です。って芦原また何かやらかしたのか・・」
営業用の言葉から一変して、気安い言葉に摩り替わる。
そして間を空けずかけた本人は・・
『緒方さん〜!!僕って才能ないですか?岸本君が解雇したいって・・クスン・・』
泣き付いて駄々を捏ねた。
声質から考えるに大人なのだが、話し方が幼い。
しかし決して面倒見が良い訳じゃない受け取り手が
「あのなぁ・・彼の気難しさは有名だろう。落ち込む事か?まぁ俺は楽しく愉快にやっているが・・」
自分の自慢話で相手の葛藤を袈裟切りする。
だが無下には出来ないと一応応対する。
そう言って携帯で同僚を慰め、数分後に切った。


さっきから一人芝居をしている者。
彼の名は緒方精次と言う、此処海王俳優協会の出世頭として有名だった。
昔は俳優として活躍していたが、そんな在り来たりな一本気な人生で満足出来る人格ではなく、常に遊びの精神を追い求めた。
何の惜しげも無く引退し、新人時代から世話になっている此処に、新人担当のマネ−ジャ−として籍を置いた。
数々の新人を成功へ導き、芦原と言う電話の相手の担当している岸本まで押し上げた。
類まれな開拓者で他者からの信頼が厚い。
引っ切り無しに送られて来る一般公募の選考書類。
誰が当社に福音を齎す素材かを決める際も、緒方のセンスに同僚は頼る。
視力は年々低下している彼だが、人を見る目は日々肥えていく。
リストラの常連芦原を雇用に持っていったのも実は彼。
大学の先輩・後輩関係だった2人であり、就職問題で苦労していた芦原を見兼ねてコネ入社をさせ、自分が育てた岸本を譲った。
しかしこの岸本薫がとんでもなく芸能家系にあり、父親は有名な監督で、母親はフリ−のシナリオレ−タ−。
兄に至っては海外でのメンズモデルであり、一家が関係者だった。
だから駆け出しの新人マネ−ジャ−で満足出来る器ではない。
沈着冷静で緒方も相棒となった時、単純には扱えず苦労した。
そんな彼も別に天狗ではなく、緒方に対しては常に感謝を心の片隅でしていた。



(そんな岸本を切り捨てて、次に選んだヤツが面白くなけりゃ出戻ってやるが、今はそんな気さえ起こらない。そう・・塔矢アキラと言う退屈しのぎを・・)
しかしそれだけじゃなく、ある者への嫌がらせも入っていた。
同じ同期でありながら、岸本を越える逸材を開拓した同業者。
岸本が特定のジャンルのスペシャリストなら、その者が引っ提げた素材は広範囲で天賦の才を放っていた。
初めて受けた敗北を忘れず、隙あらば逆襲を狙っていた。
その緒方の好敵手は藤原佐為・・
芸能界でも現役で通用しそうな外見を持ちながら、全て袖にしている異端者。
それだけでも憎ったらしいのに、その素材をあっさりと堅実さだけが売りの白川に委ねた。
同業者白川道夫と緒方は知らぬ仲ではなく、佐為を挟んで飲み友達だった。
(地味派手なヤツが、今じゃ一番世渡りが上手いから不思議だ。)


そう言って身の回りの思案に暮れていると
「緒方・・お前のところの役者大変だぞ。ゴシップ記者に捕まっちまったらしい。しかも嫌なやつに・・」
中年の庶務担当の男性が緒方に近付き話す。
「何だって?アキラが何をしたんだ?」
「何でも撮影現場でライバル子役の、葉瀬の進藤ヒカルとキスしたとFAXで送られた。どうなっているんだ?」
騒然と会社はしていたが、揉み消すんだから良いやとスル−されてもいた。
「あいつはこの世界じゃ知らない者がいない記者だからお前に話しておこうと思って・・」
と言い残し自分の業務に戻っていった。
そして緒方は深い溜息をつくかと思いきや

(これは使える・・見ておれ藤原!!お前のうろたえる姿が目に見えるぞ・・)



「明子お母さん。僕の今日の格好はイカしていますか。」
和室にそびえる黒色漆塗りの鏡台。
その前には歳にしたら10代の少年が、ポ−ズをとりながら自分を確認していた。
襖式の押入れ上段に吊るされた服の山。
しかしそれだけじゃなく足元には、ハンガ−から外された多くの服が敷き詰められていた。
そう言う熱意を微笑みながら我慢を強いられる、彼の保護者。
苦笑いを悟られない様に頑張りながら
「ええ・・それなら女の子もイチコロですわよ。アキラさん・・」
そうやってやり過そうと言葉を選ぶと
「其れだけじゃないんです。僕世代の男子にも受けるかが決め手なんです。」
それを聞くなり、明子は
(お友達とお出掛けなの?世紀末的な出来事ですわ。彼女だけじゃなく、親友いない歴16年のこの子が・・)
「同年代の男の子の趣味ですのね。それならマネ−ジャ−の彼に聞いてみたら?」
「駄目です。緒方さんは・・。だって彼自身が成人男子の規格外ですから。」
かなり失礼な事を当然のように言った。
多種多様のコ−ディネイトを嗜んでいたら話は別だとも付け加えた。
自分の為に日夜努力して、仕事をGETしてくれる彼に対してあんまりだった。
しかし反省点は無いとアメリカ人的思想【YESかNOか?】
日本人的には【黒か白か?】と言うファジ−を削除した物言いで突き放す。
そもそも緒方と出会った彼は大変だった。



アキラの通う学校で在学していた岸本を、高級車で送り迎えして管理していた緒方。
教員も許可を出しての事だったので、その部分は問題は無かった。
しかし迎えにやって来た緒方は寄りにも寄って、正門前で煙草を吹かして待っていた。
未成年が集う其処で・・
「ちょっと困るんですけど・・岸本さんの腰巾着さん。一般常識をまさかご存知ないのですか?」
制鞄を片手に携え、アキラは自身の正義を貫く。
「ふ〜ん・・だったら君も何とかしないと・・その時代錯誤のおかっぱを。まさかだがそれで現代人を気取っているのか?」
意趣返しをして、アキラを怒らせた。
(絶対あれはどう見たって僕が正しいんだ。それなのに・・)
出入りが激しい門前で【ハブとマング−スの戦い】が勃発していた。
般若の形相で噛み付くアキラ・・そしてそれを子供じみた喧嘩ごしで受けて立つ緒方。
けんけんがみがみと続く対決。
群がる学生と道路を利用する一般人。
それが2人の最初の出会いだった。
それは閉鎖的な名門学校の息抜きとなっていた。
緒方が来るたびにアキラは友人に嗾けられ、彼と何度も口論した。
性も無いネタでよくもまあ会話が続いたもんだと、関係無い事で感嘆する。
しかしいつの間にかアキラはアイドルとなっている。


(自分に一体何が起きてこうなったんだったのかな?)
首を傾げて悩むアキラ・・
記憶がぶっ飛んでいるのが何故かと考察したが、直ぐに解決した。
(そうだ!僕は進藤ヒカルを知ったからだった。甘酸っぱい初恋の相手を。)
遡る事3年前・・まだ僕達の活躍が某週刊誌で報じられていた時。

両親と花見へ赴き、一升瓶を父がお重状態のお弁当を母が持ち、僕はシ−トを脇に挟み歩いてた。
何所から見ても仲の良い家族であり、全然不自然ではなかった。
しかし他者から見たらそうではなく・・
『着物で闊歩する者・童顔美人の者・お河童の美少年』の色物トリオとして認識されていた。
だがそんな事はこれから起こる出来事には関係なかった。
間抜けな事に現場へ行ってから失態に気付いた。
そう・・花見の席を確保せず行き当たりばったりで、満開の桜のお膝元は既に人々で埋め尽くされていた。
普段から3人してイベントの知識が足りなく、失敗をどこか繰り返しお約束のように今回もだった。
来たは良いが行く当てを見失い、とぼとぼと歩くと笑い声が聞こえ3人を招いた。
手を大きく振りながら接近する一つの団体。
人数は10名であり春に負けない暖かな雰囲気がした。
母がその中の一人と顔見知りだったのか、話をしていた。
ランダムなまでの年代が共通点を周囲に単純化しなかったが・・
自分と同年代の者はいないのかと、らしくもなく不安を感じていた矢先に
「お前、他人(ひと)を物色してどうするんだ?桜の花を愛でるために来たんだろう?」
扇風機の首振り状態に陥っていたアキラに話し掛ける人物。
遠慮を微塵もしていない話し方。
流石のアキラも制止せざる得なかった。
「変わっているなぁ・・フラワ−ロックとは逆で音で反応を止めちゃうんだから・・」
「僕を玩具製品扱いするな!失礼だろう!!」
礼儀に関しては事欠かない自身の息子の意外な一面を垣間見た両親は、何故か嬉しそうにしていたのが不思議だった。
(第一印象は最悪なのにどうしてこうなったのか?何かまだ思い出さないと・・)


その息子の傍ら母親はまだ待機していた。
(早く解放してくれないかしら・・ス−パ−の夕刻市に間に合わないわ。確かお肉が半額とチラシに書いてあった上、和菓子も30%引きだったですわ。)
足の痺れより気持ちの焦りが、そろそろ臨界点に達し始めた明子は逃げたかった。
一体彼はそんな彼女に何時気付いてあげられるのだろう?

否、現実に戻ってこられるのか・・神のみぞ知る。