アイドルアキヒカ第2話「こんな可笑しな片思い★」



*このお話はパラレル要素盛り沢山です。元々パラレルじゃん!と仰らない心の広い方限定ですので、よく考えてお進み下さい。


無駄に熱いライトの真下。
脇には大掛りな高性能のカメラが数台。
それを操るものと、黒子の様に忙しなく動く裏方のスタッフ達。
そして指示を出しながら簡易椅子に腰掛ける監督らしき人物。
その熱気に負けず拍車をかける様に、熱い演技をしている者達がいた。



『あ、なんだ。子供いるじゃん!』
気軽に話しかける少年とは裏腹に、モノロ−グを浮かべる少年。
(僕はもう子供じゃないよ。立派に君を愛しているのだから・・)
『え・・ボク?』
ぶりっ子全開で指を自分に指す。
(でも演技中だし手は抜かないよ。君のために・・)
『あいつと打てる?』
さほど長くない指を指しながら、別の共演者に向き直る。
エプロン姿のショ−トヘア−の癖毛。
薄化粧の20代の女性だった。
そしてその女優の数言の台詞の後に
『対局相手をさがしているの?いいよボク打つよ』
(これ位いつも素直に僕を求め、接してくれたら嬉しい限りだが・・)
泡沫とはいえ仕事上での幸せを噛み締める。
白昼夢ではない現実に・・
『ラッキ−だな子供がいて!やっぱ年寄り相手じゃもり上がんね-もんな!』
(僕もラッキ−だよ。年寄り云々は別として・・)
まじまじとうっとりとしながら、その相手を焼き殺すように見詰める。
例えるならビ−ム光線の様な・・
『奥へ行こうか・・ボクは塔山あきら』
(奥でイカすなんて・・何て僕は大胆なんだ。誘ってあわよくば・・)
此処がスタジオでなかったら、屋外での撮影だったらエスケ−プ出来るのに・・
無責任な事を悔やんでいた。
『俺は新庄ひかる6年生だ』
(おいおい・・君は進藤ヒ・カ・ルだろう。僕のディクショナリ−トップに君臨する単語の・・)
でも可愛く笑い掛けるその者に目を奪われてしまう。
そして次の台詞が咄嗟に出てこなかったが
『あっボクも6年生だよ』
(本当は16歳だけど・・幼い体型があってこそのこの役だし・・複雑だよ。)



備え付けのセットがスタジオに作られ、其処に2人の少年が移動し椅子に鎮座する。
一人は今風な身形で、経費が掛けられていないお手軽な雰囲気ではあったが、着こなしさでカバ−されていた。
そして向かい側に腰を据えている者。
何処かの碁会所に一応不適切ではない衣装を纏っていた。
ブランド物の私学小学校制服を基調とし、出費はかなりの高額だったと予想される姿。
しかし敢えて言うなら頭を傾げる組合わせである。
例え値が張るものを揃えても、センスが無ければ台無しになる。
そんな少年は更に時代錯誤なおかっぱであり、個性的ではあるが模りたくは無い。
静かに碁盤を挟んで対になり、そして言葉を発した。
『棋力はどれくらい?』



飲み込みが早い出演者達。
薄暗いせせこましい壁際にあるデジタル時計が夕刻を表示していた。
それとは違う監督の腕時計が周囲を取り仕切っていたので、彼は自分のそれを確認した。
了解と言う合格点を出した面子に労いの言葉を掛け、撮影は終了した。
そして早朝から長々と続いた撮影に、ようやく区切りが付き出演者達は散り散りになって行った。
自宅へ帰宅する者、芸能事務所へ立ち寄る者。
私用で動くため変装を控え室で施している者。
各々の理由でスケジュ−ルを消化する。
佐為は関係者との打ち合わせがあるからと、ヒカルを控え室で待たせていた。


しかしヒカルは取り止めも無くスタジオを散歩していた。
腐っても高校生の青春期。
じっと一箇所で待機と言う、年寄り臭い事は出来ないと直ぐに出歩いた。
だから好奇心の塊のヒカルは自由にしていた。
普段の生活では絶対に見る事もないセット機材。
何所に繋がっているのか入り混じったコンセント達。
使い古された床の網目状のキズ。
それらを見ながら撮影で使われたテ−ブルを優しく摩った。
「やっとの連続ドラマでの主役か・・愁のやつ、きっと喜ぶぞ。」
一番現在の自分を見て欲しい相手・・
全てを譲って託し、不慣れな外国に新しいマネ−ジャ−白川と頑張っている親友・・
そう呟いて微笑むがそんな彼の言葉に反論する為、無粋にも乱入した者がいた。

独り言に突っ込みは入れない常識を破る者。
鼻息は荒くは無いが、酷く不機嫌な顔でヒカルを見てくる。
そうして自分に迫ってきた者は、さっきまで共演していた塔矢アキラだった。


「進藤君は、何時まで本因坊愁の影を背負うんだ?彼の為にこの世界に入った訳じゃないだろう。」
至極まともな事を・・
他人の動機など関与しないのも芸能人の暗黙の了解。
しかし激情的に一方的だが話しヒカルの言葉を待っていた。
それに対しヒカルは複雑そうにしながら
「どちらとも言えねぇと思う。現に俺がアイドルになれたのは愁の努力があってこそだし・・」
本因坊愁は進藤ヒカルにとっての絶対的な存在。
【卵か親鳥かどちらが先】と言う質問をしているようなものだ。
どちらを欠いても本末転倒になりかねない程、根底で繋がっている。
「でも明らかに彼には無い魅力が君には有るんだ。それは塔矢アキラである僕が保証する。」
愁が春に咲き乱れる桜なら、ヒカルは野原を鮮やかにする菜の花だった。
だから2人は比類ない者だった。
愁は目指すべき先輩で、ヒカルは愛すべき好敵手。
揺ぎ無い確固たる進藤ヒカルのシンパだとアキラは伝えた。
実際ヒカルに対する非難や中傷は一刀両断してきた。
虐めに遭わそうと画策する他の俳優も近付けさせなかった。
ネタを探し付き纏う記者も彼から遠ざけた。
悪質なファンは闇に葬った。
藤原佐為とは違うポジションで彼をひたすら守護していた。
だから彼の発言がどうしても気に入らなかったが・・


「そうだな・・塔矢の言った通りだ。何だか今回の役って俺達の関係に似ていないか?」
何かを発見したように瞳を輝かせるが
「塔山あきらほど僕は荒んではいないよ。大体初対面の相手に図々しく踏み込み過ぎだ。でも新庄ひかるは君と少し似ているかも?」
「俺とひかるが?勉強面では違いすぎだ。俺平均以上は出来るもん。社会だって得意だし・・」
設定に文句を付けるつもりは一切無いが、ヒカルは学業を疎かにしない。
父親で有る正夫の職業は教師。
いつも大量の紙の束を自宅に持って帰り、書斎を職場の延長線にしていた。
PCの前で処理をしながら、教科書を丁寧に解読し授業に備える。
時々母親が気を利かせて夜食を運んでも、夢中で周りが見えていない時がある。
それ程勤勉な正夫の息子が、赤点の常連な訳が無い。
早熟でもないが幼稚園児から既に九九は言えていた。
最初は正夫の英才教育でヒカルに遊びの様に教え、ヒカルは鼻歌交じりで唱えていた。
しかし流石にそれの意味までは理解できなくとも、瞬間暗記能力は養われた。
だからひかるの粗が見えてくる。
「そうかもしれないね。でも勉強はそれだけじゃないんだよ・・知っている?」
「えっ・・?他に何があるんだ?」
目をパチクリしながら問い返すヒカルに、アキラは彼の唇にキスした。
視界を防がれたが、酷く優しい感触がヒカルを襲う。
暖かなアキラの一瞬の体温を、予想外な部分で感じた。
それをなぞる様に指で自分の唇をたどる。
その行動にアキラは満足したというより、正直困惑した。
自分を突き飛ばさなかった彼の真意を持て余して・・


「・・こう言うのは理解があるのかい?君はもしかして・・」
自信家のアキラに一筋の汗が伝う。
同性愛者とは対極に位置しているヒカル。
異性関係でも硬派で堅実な雰囲気を周囲に与えている。
それが・・



(何とか言ってくれ。・・頼むから・・)
加害者が被害者に様変わりしていた。
男色家ではない彼に過ぎる疑惑。
仕事関係は把握済みだが、私生活まで網羅してはいない。
しかし家族構成は熟知していた。
公務員の父親がいて、早朝から夜遅くまで監禁状態で仕事をしている。
ヒカルの自由を愛する性格を、育てたとは思えないほどの厳格な男性だと聞いた。
眼鏡が映える優男で、子煩悩なのも噂だがある。
そして彼の母親はス−パ−で売り場を担当している。
細やかな女性でたまにそこを利用するから、アキラとは知らぬ仲ではない。
愛嬌があって来店客を迎えていて嬉しい事に、アキラの母とも旧知だった。。
それから年子の姉のあかりがいて、顔立ちは双子だとまで言われる。
だがアキラにとって食わせ者で、何度となくヒカルに変装した彼女に騙された。
スタジオにヒカルの忘れ物を届けに彼女が来た時、火花(悲劇)は切って落とされた。


ちょっぴり下心を含めしゃべってしまった迂闊さ。
その内容は今でも羞恥心に駆られるが・・
思い出したくも無いのが正直な感想だった。
元々弟と同一視されるのが大嫌いなあかり。
決して女の子らしくないのではなく、ヒカルが異常なまでに中性的であったからだった。
間違えられ同性の女の子に告白される事の嫌悪。
それを嫌っと言うほど味わっていたから精神状態は常に最悪だった。
だからアキラの言葉の端々にある粘着質な部分に敏感で
(この子・・ヒカルを狙う狩人を気取っているわ。あの子は肝心な部分が無防備だから心配ね。)
と佐為より少しばかり早目に彼の性癖を見抜き、警戒をしていた。
弟ヒカル本人に対して別に嫌いではなく、逆に世話焼きだった。
それ以来自分の年下の恋人三谷に頼み、ヒカルの登下校をガ−ドして貰った。
その恋人が腕に覚えがあり、忽ち群がる雑兵を薙ぎ倒す。
だから私生活には一切関われなく、アキラは木陰で見詰めるしか出来なかった。

そして流れる沈黙だったが・・
「塔矢お前ってやっぱり凄いな。これって演技指導だろう。いずれ俺達は恋愛系でも活躍しなければならないし・・でも男同士はないだろう?」
そう言って追求するヒカルは、掴みどころの無い表情でアキラを見た。
だが頬は真っ赤だった。
誰がどう見てもファ−ストキッスで有ったと言うのは結論付けられる。
嫌悪というより、驚愕していたのがアキラにとって救いだった。


だから・・甘えてしまおうと決意を固めた。

「有るかもしれない・・最近の傾向は様々だしね。だから僕と時折練習しないか?一人じゃこう言ったシ−ンは出来なさそうだし・・」
あくまで警戒心を殺ぐために、自然な罠を仕掛ける。
それは吉と出るか凶と出るか・・
どんなプレッシャ−よりも難敵なヒカルの結論を待つ。
考えに考えたヒカルは清清しく
「うん。大変そうだけど頑張ってやってみる。」

哀れにも罠に堕ちた・・