アイドルアキヒカ第1話「こんなある日の少年達★」



*このお話はパラレル要素盛り沢山です。キャラクタ−の設定重視の方にはお勧め出来かねますので、よく考えてお進み下さい。


高さや奥行きに於いてもさほど大きく見えない郊外の建物。
しかしひっそりとも言い難い天に伸びるアンテナの面妖さ。
何処かの科学研究所の外観にも酷似しているそれは・・

『北斗テレビ局』


従業員は数知れないらしく、関係者にいたっても把握していない。
給料支給はどうなっているのか?という些細な疑問は仕事を見てから判断される。
そう言ったクレ−ムは残念ながら未だ嘗て無いことで、そう言った分野でも抜け目無く一般企業と同じ仕組みとなっていた。
いわゆる管理は抜群であった。
そこではテレビ局という肩書き通り、多種多様の職種が集合体となっていた。
それぞれが格得意分野で活躍して、一つの事業を確立させ会社全体を支える。
雇用の範囲が馬鹿が付くほど広いが、大きく2つに区分される。
煌びやかな舞台の上で活躍する表舞台専門の人材。
弱肉強食の世界で個性を磨き、何か一つでも印象付けようと鍛錬する。
此処にア−ティストや、俳優・アナウンサ−等が主に幅を利かせている。

そして裏方で活躍する者達・・
彼等なくしてこのマスコミ業界は成り立たず、逆に一番手腕が問われる。
芸能人も始まりはただの人と言う現実を、真摯に受け止めそこから開花を促す。
洞察力と実行力を均等に兼ね揃える者が、適任だった。
そう言った役職にマネ−ジャ−が組され、その一人藤原佐為がお付き人として頭を悩ませていた。

その空間にはメイク用の大鏡と、その台に積み重ねられているギフトの山々。
壁際のバケツには持て余して溢れながら刺さっている花束。
長い控え室のテ−ブルの上には、冷めた紅茶と瓶詰めの胃薬。
手には分厚い台本と数枚の写真。
眉間に皺を寄せながら暗くなって、何やらぶつぶつとぼやいていた。


「こんな気苦労をする羽目になるなんて・・あちらさんの作為的行為としか思えない。」
そう言うなりぱらぱらとペ−ジを捲り、溜息をつく。
そして中表紙に当たる所のある一点を凝視する。
沢山の著名な出演者が記載され、そのトップバッタ−には

囲碁の新星:新庄ひかる役・・・進藤ヒカル(プロダクション葉瀬)

となっておりそこには別段問題は無いと、逆に主人公役獲得を喜んでいた。
そう・・彼は進藤ヒカルの敏腕マネ−ジャで業界に存在していた。
たまたま町で先の佐為の相方・・本因坊愁(しゅう)と繰り出したとき彼と意気投合した少年。
正確にはもっと違う関係でもあるのだが・・


久々のOFFの時、滅多に普通の多感な青少年らしい事が出来ない愁は、変装を条件に佐為と下町に赴いた。
行き交う自分を商品化していない、ある意味制約が無い一般人に羨望を感じ愁はある店舗に入った。
最近何所にでも見かけるゲ−ムセンタ−。
自宅では味わえない興奮が此処にはあった。
特に目立った店舗ではなく、有り触れた内装。
コインメダル用の自販機が、軽快なまでの音を立てて渡し口を一杯にしていた。
シュ−ティングゲ−ムに飽きて、次のゲ−ムを探し其処に座る。
そして選んだレ−シングゲ−ムを愁はプレイして、そこで高得点を弾き出した。
元々友人を作る暇が無い環境だった彼は、個人的な遊びに気分転換を求めていた。
そこで培われた娯楽の技術は半端じゃなかった。
購入した新作を攻略本無しでクリアし、そして寝不足を一切他人に悟られない様に健康管理すら完璧だった。
他愛無くいつもと変わらない所業をして、立ち去ろうと腰を上げる。
そして佐為を探そうとカ−から降りようと鞄を肩に掛けた。
しかしその行動を隣の競争相手に声を掛けられる事で制止される。
「お前、凄いなぁ・・。俺の昨日出した最高点を破ちゃうんだから・・」
金色のメッシュが目立つ少年は気安く話しかける。
その人嫌いしそうにない表情に安堵し
「うん。僕は日々ギネスブックを目指して頑張っているからね。」
自分でも意味不明な事を言ったなぁ・・と愁は感じた。
しかしそう言い切る愁を少年は
「こんな細かい分野はないって。お前本気で面白いなぁ・・」
年齢が近かった為、お互いの警戒心は皆無で話し込む。
「僕はね。実は久しぶりなんだ。こういった場所に来るのは・・ところで君は此処の常連なのかい?」
「う〜ん・・3日前に立ち寄って今日もって感じ。お前と変わんないよ・・多分。」
大きな零れそうな瞳を向け、不恰好な帽子を被る愁を見上げ
「さっきから気になっていたんだけど、室内までそれを被る意味があるのか?」
指を指しながら不思議そうにしていた。
「ごめんね。不快だった?というより僕の事を知らないのかい・・君は?」
「初対面の相手の何を知っているんだ?変なヤツ。」
(そこそこ売れている子役スタ−なのに・・ちょっとショックかも・・)
青春に未練を残しながらもひたすら頑張っている自分を、感知されていないもの寂しさ・・


(服装からも疎いようには見えないのに、彼はテレビを余り視聴しない主義なのか?)
現代人のテレビの視聴時間は年々増加している。
だから膨大な量の情報が飛び交っている所為なのかも・・
そう思案して何だか落ち込む愁を気にせず
「だったらこれから覚えてやるから、お前の名前は・・」
一応無知なヒカルにでも、周囲はどうか解らないと警戒しながら近付く。
そして質問する彼の耳元に小声で愁は
「本因坊愁・・15歳。君は何て名前?」
ひそひそ話を別に疑問も持たず返す少年は
「俺は進藤ヒカル。14歳で中学生。何だか気が合いそうだし度々遊ばねぇ?」
ひょんなお誘いだったがどうしたものかと考える。
こう見えても多忙な毎日を過ごしている。
スケジュ−ルは絶え間なく更新され、気軽に扱えない。
苦悩に苛まれていると、突如自分達の間を割って入った佐為。
明らかに愁を探していた様で、少し汗が見えた。
しかしそんな佐為をじっと見詰め挙句の果てにヒカルは
「叔父さん。どうしてこんな場違いなところに・・?」
親しげに話し出し意外な接点を伝える。
サラリ−マン姿の佐為は確かに、着崩れた連中が屯する此処には相応しくない。
しかし問題は其処ではなく・・


「藤原さん。彼と知り合いなのですか?」
と疑惑を向けて真相を聞き出そうと努力する。
すると佐為は2人を静かに見据えて
「愁・・この子は私の兄の息子で叔父と甥の関係です。何分破天荒で困り者ですが・・」
「酷いぞ叔父さん。年相応の陽気さと訂正してくれよな。」
むくれて不機嫌になったヒカルに容赦なく
「何を言い出すのか。正夫兄さんがいつも苦労しているのを知らないと思っているのですか?」
嗜めているのか更に火に油なのか・・佐為はヒカルのおでこを指で突っつく。
少しよろけながらヒカルは叔父に
「だったら愁ってアイドルなのか?叔父さんの仕事は芸能関係だし・・」
やっと回りくどいが愁=役者と言う方程式にたどり着いた。
意外に世間は狭いと思う一瞬でもあったが、ヒカルはそれをも無効化にしてしまう。
(彼は僕よりこっちの世界に通用しそうだ。スカウトしないのかな・・誰か・・)
天真爛漫な彼と、芸能温室育ちの自分。
ショ−トの今風にブラウンのカラ−が入った、背格好としては平均な愁。
特に華やかな美少年と言うわけではなく、しかし印象薄い顔立ちではない彼。
見てくれよりその演技の幅が広い事で有名で、基礎に欠陥が皆無だった。
堅実さが売りな自分は、より新鮮を求める走馬灯の様な時代にいずれ埋もれていく。
しかし目の前の彼はその点に於いて、打たれ強い印象を受ける。
決して同類ではないが、原石の魅力が見える。
そう思った愁の行動が、芸能人進藤ヒカルを誕生させた。


親友とまで呼べる様になってから、さり気無く芸能界入りを仄めかす。
そして自分は予てからの外国に活動拠点を移動させる。
それから佐為を通じて正式にヒカルを説得し、彼を陥落させる。
所謂そっくりそのまま自分の籍を、ヒカルに移行したのだった。
運動神経に優れており、台本暗記能力は意外だが抜群だった。
それには関係者も驚愕して、人は見掛けによらないと学習した。
最初は名子役の日本での活躍を期待していたファンを失意させたが、引き継いだヒカルに自然と興味が移っていた。
そして押しも押されぬアイドルに育っていった。
問題は彼ではなく・・



何故か次のキャストに不満を抱き・・
「あの我が儘アイドル少年が〜!!絶対裏金が動いているのがばればれだって言うのに・・」
自分の手塩にかけたヒカルを・・しかしそれだけではなく甥としても大切な彼を・・
保護者代わりに守るがゆえに、最重要危険人物と認定された者。

囲碁の天才少年:塔山あきら役・・塔矢アキラ(海王俳優協会)

その一点に難しい顔をした。
素行は問題無しの優等生であり、そう言った部分で言うならヒカルの方が不祥事が多い。
大衆が惚れ惚れする比類ない見目があり、末恐ろしいまでの存在。
礼儀も事欠かないようで、関係者にも好印象。
しかしそんな彼のアキレス腱。
そうではなく意外な弱点兼滋養供給は・・
「ヒカルに対する一方的な熱愛が無ければ・・好敵手として気がまだ楽なのに・・」
何時から彼はそんな思いを抱いたのかは後に理解できる。
前々から業務のマネ−ジメントの一環として、動いて漸く勝ち取った仕事。
主役的要素は有るのに、ヒカルの学業の為泣く泣く捨てたその手の依頼。
しかしそれは芸能活動としては致命的だと、愁とは違う方面で頭を使い調整に調整を重ねて得た初主役。
祝杯でもあげたい気分だったものを、ぶち壊した佐為的問題児。
(塔矢アキラ・・貴方の奇行をこちらが訴えない事を感謝しても良さそうなのに・・)
決まってヒカルの出演作品に端役でも存在するアキラ。
最初は偶然だと佐為も感じていたが・・その数ヒカルのデビュ−から現在までの全て。
そんな都合が良すぎる偶然は無いと、事務所の伝で調べた結果・・
アキラはヒカル抜きだと仕事を了解しないと聞き、不快感が込み上げた。
別にヒカルに対し佐為は独占欲は無いが、これとは話が別だと必要以上に守りを固める。
しかし今回も包囲網を破られたと嘆いていた時・・


「藤原の叔父さん・・大丈夫か?初老にはまだ早いって・・」
憎まれ口を叩いてヒカルが覗き込んでいた。
大きな団栗眼が佐為の葛藤を徒労にする。
それよりも・・
(もしかしてヒカルはアキラ君の求愛をまだ気付いていないのか・・それなら大丈夫だ。)
自分的に何が大丈夫なのか問いかけたいが、せめて現実逃避でもしなくてはやっていられない。
思い人が天然でアキラは気の毒かも知れないという、慈悲など無い。
大いに悩めと悪魔のように微笑む。

『芸能界のトップはヒカルが極めるのですからね☆』