泡沫の白い鳥〜第四話『虚無への予感』



嘘が自分を癒し、真実が自分を追い詰める。
でもまだ何かに飢えていた思いを、無くしたくない自分が此処に居た。
しかし・・それは独りよがりで・・



「放せよ!俺はこんな所行きたいとは言っていない。」
何時も以上にきつく腕を掴むアキラに、制止を呼びかける。
指が食い込む位に逃がさないと思っているアキラには無駄だった。
引っ張るようにホテルのロビ−で手早く受け付けて貰い、鍵を持って指定された号室に駆け込んだ。
ピンク色の視覚的にはグロテクスな場所に、男性が二人・・
場違いな自分達に吐き気がしたヒカルは
「何のつもりだ。犯罪だぞ。これは・・」
恐怖か怒りか分からない淀んだ心が、言葉を紡ぐ。
少しだけ足が震えていて、扉の方へ後ずさっていた。
「この期に及んでまだ理解出来ないのか・・君は。」
静かにそして熱く言葉を吐く。
「理解だと・・。俺はお前とはもう好敵手以外関係無い筈だ!」
そして虚勢を張るが・・
「関係無い?くっくっく・・安心して良いよ。僕は大有りだから・・」
せせら笑うアキラは扉前で立ち竦んでいるヒカルを、ベッドに座った位置で眼力で縛り付ける。
(怖い・・もうこんな場所・・逃げたい・・)
でも言う事をきかない身体が、逃げ道を塞ぐ。
しかしアキラは大きな息をついて


「大林早苗の言った事は少し誇張が入っている。僕は彼女を抱いていない。あれは君を抱いた結果だ。」


意味が分からない言葉にヒカルは固唾を呑む。
訳ありだとあの時感じた期待が少しだけヒカルを安定させる。
「君が病室に現れた後、両思いになった。それは君も逃避出来ない事実だろう?」
下を向いて視線をそらした自分に、辛抱強く語る。
「その後検温の時間に僕は、君と背格好もそして偶然にもシャンプ−まで同じだった彼女を、勘違いで抱いたんだ。」
その話は嘘じゃないとヒカルは思えた。
確かに早苗と自分は殆ど外見は大差ない。
髪の長さに声変わりもままならない、高音の声色を未だに持っている自分と・・
見れば見るほど雰囲気が合致する。
しかし・・


「はん!だからどうだって言うんだ?俺はこう見えても彼女持ち。お前の性欲まで面倒をみられるか!」
気にしない様に、酷く残酷な返事をした。
誰が聞いても怒りに震える発言だったが・・
「だから君は僕を理解出来てはいない。この思いが自分だけのものなら我慢は出来る。でも・・」
そしてゆっくりと立ち上がり、ヒカルに近付き・・
「君も既にこの恋に加担した。それだからこそ動き出したんだよ。2人の愛が・・」
手を差し伸べ小柄なヒカルを引き寄せ、瞳を捉えた。
潤んで涙が零れる寸前の表情でアキラを見詰めた。
ヒカルとてアキラのした事を許せない。
どんな理由があろうとも他人と関係したアキラを・・


(俺もあかりがそれでも大切だから・・責められないけど・・)
言い訳をしたくてもお互いが傷付く。
不毛な関係に終わりが無い事を思い知る。
「君以外はいらない。君が本当の事を言うまで監禁してやる。」
「本当の事・・それがお前の恋を終わらせられるんだな?」
無意識に手がアキラの頬を撫でる。
男の中でも整った方の顔にゆっくりと近付く。
間近になったアキラの真っ直ぐな瞳。
ついに堪えられなくなった涙が溢れた。
「好きだよ・・本当は。でも俺はそんなに強くない。お前に守ってもらうのも嫌だから・・」
少し間を置いて・・
「だからもう一度・・何も無かった日へ戻ろう・・アキラ・・」
やっと向き合えたと思ったが、これは最初で最後の両思いだった。


そして素直になった互いを確認する為に、精一杯貪った。
アキラはヒカルをベッドに導き、壊れ物のように丁寧に衣服を脱がしてゆく。
棋院で抱いた後のものはそこにはなく、アキラは再現させるように上半身を愛撫した。
至るところに唇の跡を残し、ヒカルは・・
「う・・ふっ・・そこは駄目・・」
くすぐったい感触と淫猥な舌が、ヒカルの乱れを誘う。
それが嬉しいのかアキラは
「まだまだこれから愛してあげるよ。だって君は僕のものだから・・」
そして鬱血をヒカルの肌に繰り返し施す。
汗ばみはじめたヒカルは興奮しているとしきりによがる。
「ふ・・うん・・ううん・・あ・・嫌・・」
そんな女の様な自分に羞恥を感じたヒカルは拒絶を口走るが・・
「う・・・っん」
全てをアキラの口付けで奪われた。
口腔を嘗め回し、互いの唾液が混ざり音をたてる。
“ピチャ・・ピチャ”と甘美な・・


生温かい吐息と、体温がお互いを更に昂ぶらせる。
ヒカルの髪を絡め取り、より深く舌を差し込む。
「ん・・・ん・・!!」
息も絶え絶えなその行為で、流石に息苦しくなったヒカルはアキラの背中を引掻いた。
そして赤い数本の筋がアキラの背中に傷を残す。
だが夢中になって貪るアキラには、それは可愛い抵抗としかうつらなかった。
目をきつく閉じて何とかやり過そうともがくヒカルの、残酷にも胸の突起までも刺激を与える。
口はアキラに塞がれて、そしてその愛撫はきつさを増して感じられた。
指で摘んでは潰し、そして解すように転がす。
桃色だったそれは徐々に変色し、赤黒くなっていた。
それを見たアキラは・・


「口は少しだけ解放してあげるよ。でも・・此処が僕を求めているから可愛がってあげないとね。」
そう言って下の突起を歯で噛む。
唾液に塗れた唇でヒカルは
「や・・止めろ・・痛い・・」
「嘘はいけないよ。こんなに誘う此処が、自分がHだから全てを受け入れなくては・・」
苛むようにワザとこりこりとヒカルを追い立てる。
時折舌で転がし、其処はアキラの体液で鈍く光っていた。
数回過去に抱かれた為、ヒカルは以前よりずっと感じ易く激しく善がる。
「あっ・・い・・いやぁ・・あ・・あ・・ん」
甲高い声が天井のミラ−にまで届く。
元々男女の性交のための用意された空間だったので、何も不思議ではなかった。
多方面から自分を確認出来る鏡・・
其処に映っているのは、喘ぎ苦しむ自分。
組み敷かれている自分をダイレクトに伝えるそれは、ヒカルにとって羞恥心を駆り立てるアイテムに過ぎなかった。


「あ・・アキラ・・止めて・・お・・お願いだから・・」
汗の為髪が肌に纏わり付き始めたSEX。
そして絶え間なく聞こえる、普段なら有り得ない音。
それよりアキラを誘っている自分を認めたくなかった。
(今更・・男だって事を自覚するなんて・・)
だがそんなちんけな懇願は聞き入れては貰えず、アキラはヒカルの中心をズボンの上から摩って
「温かそうだよ。此処は・・君の本音がスケベでどうしようもない事がこれで分かる。」
傲慢な言い方で言葉でもヒカルを昂ぶらせる。
そしてベルトを外し、ヒカルのズボンをベッドから放り投げ取りに行けないようにした。


「あとはブリ−フだけだよ。君と僕を隔てるものは・・」
無抵抗なヒカルに現実を叩き込んだ。
それが堪えられず仰け反るヒカルを腕一本で押さえる。
胸から腹にかけて指で辿り、そして一番下の股間付近でそれを止める。
そしてまた上へ指を移動させ、羽根アイテムのような仕種でヒカルを興奮させる。
「ふ・・う・・ぅ・・ふ・・ん。あっあ・・!」
感受性が高いそこをピンポイントで攻め立てるアキラ。
首を左右に振り乱しながら抵抗するヒカル。
シ−ツがよじれ、みしみしと鈍い音をたてる。
そして意識を手放そうとした時・・


「うっ・・ん!!」
アキラがブリ−フの隙間から手を差し込み、あろう事かヒカルの中心を掴んだ。
その刺激に堪えられなくなったヒカルは、涙を滴らせ無いも等しい腕の力でアキラを押し戻す。
しかしそれを気に入らないアキラは、指で先っぽをしごき始めた。
滴り落ちる濁流のような精液はアキラを狂わせた。
生温かい尿とは違う性感帯によっての液体はアキラの手を汚す。
「今日は何時も以上に僕を感じているようだね。ほら此処が悦んでいるよ。」
引っ張っては戻し、そしてヒカルを更に乱れさせようと手を休めない。
そして耐え切れなくなったのは、アキラの方で無粋なブリ−フを取り除き顔をヒカルの股間に沈めた。
「な・・何を・・止めろよ・・アキラ・・」
ペニスを銜えキャンディ−を味わうように愛撫を・・
端から漏れるヒカルの精液を、全て残さず自分に取り込むように・・
「やぁ・・あ・・・あ・・ん・・ふぅ・・あ・・ん・・」
アキラの頭を押し戻しているのか、引き寄せているのかアキラの頭に添えられた両手。
最早羞恥心を根こそぎ奪われ、快楽に溶け込んでいるヒカル。


それに満足したアキラは、女性ではあるのだが男性には無い受け入れ口を探る。
碁で磨り減った指がヒカルの肛門付近を蠢く。
入り口は酷く狭く、いくら感受性が高くても困難だったが・・
「僕は力碁・・常に攻める運命にある・・」
そして指を一本・・そして二本とこじ開けるように貫通の準備を進める。
でもそれだけでもヒカルは苦痛で
「止めて・・何でもするから・・だから・・」
懇願を繰り返すヒカルをあえて無視して、アキラはヒカルの茎を銜えながら手を止めない。
そして・・
「君に僕を受け入れて貰うよ。随分待たされたから満足するまで放さないからな・・」
その言葉とともにアキラの情熱がヒカルを貫いた。
脳天を劈くような痛みがヒカルを容赦なく襲った。
「い・・痛い・・あああああ・・助けて・・」
汗を飛ばしながらアキラは打ちつけて、ヒカルの腰を弄ぶ。
揺れる互いの下半身は生々しかった。
性急だったアキラの所為でヒカルの入り口は切れてしまい、赤い血をシ−ツに落とした。
それにも増してアキラの精液は溢れて、ヒカルの中で満ちていた。
室温が異常に高く感じた2人は、それが自分達の心の熱さだと気付かない。
そして数時間後・・


「僕はこれで終わらすつもりはない。これからも君に付き纏うよ。」
行為の後アキラは、失神寸前のヒカルの耳元で囁いた。
その戒めのように自分のコ−トから一つの箱を取り出す。
その中には9月石(サファイア)の指輪があった。
取り出しアキラはそれに口付けヒカルの指にはめる。
結婚式で新郎が新婦にするそれに象って・・
「両思いになったら渡そうと思っていたものだ。それが僕の本音だ。」
しかしヒカルにはそれが激しく空虚に感じられ、静かに眠った。

(何かまだ・・嫌な胸騒ぎがするのはどうしてだ・・)