*これは読みきりなアキヒカ作品です。本編とは全く関係ありません上、かなりシリアスなので苦手な方は引き返して下さい。(R−18描写の匂いもあります。)
認められない恋愛を俺達は選んだ・・
祝福されない愛情を僕達は育んだ・・
冷静になれば未だ引き返せる距離にいたのに・・
どうして・・
自分達は同性愛に寛容な人間じゃない。
寧ろ常識から逸脱した感情に振り回されている事を哀れんだ。
拒絶していたと理屈付けられる位置にいた。
しかし純粋に、親友と好敵手に揺れる事が苦痛に思えた。
正確にはそうではなく、焦げ付くような激情が生まれる。
手を伸ばせば届く位置にその答えがある。
押し寄せる海原のように・・
だがその波に用意された危険な世界が、波打ち際で思い留まらさせる。
相手を不幸にしていく事実。
自分に容赦なく訪れる自滅。
その目に見えている結果を知りながら、こんな感情に支配されている。
そんな愚かな自分達を認めたくなくって、世間体に則った結婚をする。
そうやって興味関心を反らそうと足掻くが、何ら変わりなかった。
それどころか虚しいまでの愛憎に苦しめられた。
壊れていく報われない愛が、逢瀬という日陰で懇願にかわる。
所有の証を幾度も互いに残そうとも、得られない高揚感。
心は一緒だからと繰り返し確認しあう不安。
こんなに互い無しでは生きていけないのに、弱い己が逃避した結果がこれだった。
そうとは知らない戸籍上の配偶者と、その傍らの無垢な魂・・
堕ちるなら2人だけで充分だったのに、巻き込んでしまった。
消えない遺伝子まで浸透した罪に、救われる場所など無い。
そう思う事がそもそも都合が良すぎる。
だからどうか・・愛すべき子孫達よ・・
後悔しない愛を貫いて生きて欲しい・・
愚かであった自分達が唯一願う祈りだから。
そしてアキラに対して・・
『素直になれない癖に、それでも愛を捨てられなかった俺を憎まないでくれ・・』
そう死ぬ瞬間、心に浮かべた。
懺悔のように・・
共に寄り添って、明日を迎える事すら出来なくなった自分。
布団の中がこんなに冷たいものだと、今更思い知った。
そして冷えゆく命を誰も・・そして自分ですら止められない。
桜が散り終わり、枝が次の年に向かって延びていく様を横目で見た。
痩せ細った指に煌く9月石(サファイア)の指輪。
臨終を悟った時妻に持ってこさせた宝物。
アキラの最後の贈り物・・
そして伝う涙と共に5月の風の中、露と消えた。
ヒカルの訃報を聞いたアキラもまた、病魔に侵されていた。
肉体的限界は其処まで迫っていた。
そして今度は精神がその地へ誘われる。
天国なんて行けやしない自分達を自覚する。
しかし切望出来るなら、何所かで繋がりたい。
地獄でも2人なら乗り越えられる。
生前では罪しか残せなくとも、死後は本気で愛を築こう。
だから待っててくれ・・愛する僕だけの光(ひかり)。
必ず其処に辿り着くその日まで・・
誓うように首に提げているネックレスに口付ける。
まだ元気だったヒカルがくれた、12月石(トルコ石)のプレゼント。
走馬灯のように霞掛かる思い出。
『進藤・・いやヒカル。君はもう僕の中(こころ)にしかいないんだな・・』
滲む涙が思いを優しく包む。
そして2人が出会った冬の寒い日・・
アキラは雪に覆われた。
そうして残された罪の刻印に微かな希望が芽吹く。
初雪が降り始めた季節・・
ヒカルとアキラの子孫が婚約した。
隔世遺伝の様に蘇った2人の面影を残す魂・・
しかし先祖のような道ならぬ恋愛ではなかった。
異性関係で巡り合った者達にモラルでの苦悩は皆無だった。
微笑むヒカルのような太陽の笑顔を持つ女性。
そしてその側で見詰めるアキラのような優しい男性。
因島でのツア−で知り合った2人は、運命を感じた。
何か懐かしいようで胸を打つ鼓動。
惹きつけられてどうしようもない相手。
側で戦ぐ風は5月の風・・
それが運んだ奇跡だったのか・・解らない。
でも2人に込み上げる涙の訳は理解できた。
縁という相手を捜し当てたと・・
託された生命にあった愛を・・
今度は間違えず2人で歩いて行くために・・