手折った僕だけの華〜第四話〜『トラウマ』



*このお話はフィクションです(当然)展開上R−18レベルになる可能性がありますので気を付けてお進み下さい。


決して門外不出だった紐括られていた心の箱。
エデンでイブが禁断の果実の誘惑に負けたように僕も解いてしまった。
それが何を齎すのか知らないものなのに・・


足早に逃げようと先ずは自分の荷物のある場所にヒカルは急いだ。
テ−ブルや椅子の角に腰の部分をぶつけながら、背後に迫る者から逃げる為・・
そしてそれを漸く手にして、入り口に駆け寄ったが・・
「鍵が掛かっている!開ける場所は何所だ・・」
立ち塞がる扉には施錠がされており、ヒカルの精神を混乱させる。
上から下まで手でぺたぺたと触り、取っ手の場所から少し離れた所に小さな捻る物を発見した。
内鍵が見つかった事で余裕を取り戻したヒカル。
最後の関門を今正に突破するその時・・
「甘いよ・・進藤。君には少し大人しくして貰う。」
そう言うなり何所から取出し、準備していたのか湿ったハンカチをヒカルの口に宛がう。
背後から抱き締められされたそれに、ヒカルは抵抗を奪われる。
ハンカチに染み付いた薬品【クロロフォルム】が、段々ヒカルの神経を麻痺させる。
徐々に肉体から力が抜け落ち、足がふら付く。
焦点が合わなくなり彷徨う視線を天井に寄せる。
体重をアキラに預け始めている。
片手ではアキラの手を退かす事は不可能であり、肩に提げていた荷物がアキラに奪われる。
黙ってそれを制止できず涙を零す。
そしてヒカルは意識を失った。

ぐったりとして気絶しているヒカルを抱き抱え、碁会所の簡易ソファ−に移動させた。
強制的な眠りを齎されたヒカルは少し苦しそうに寝息をたてた。
眉を伏せてその端には涙の筋をつくって・・
それを見下ろすのは満足気な僕だった。

胸ポケットから小瓶を取り出し掌で転がしていた。
幼少の頃から塔矢行洋の名声とその年収目当てで誘拐された事が多々あった。
年に3回は記録していたゆえ、防犯用具には嫌でも精通していた。
スタンガン・防犯ベル・目暗ましのライト・・沢山の道具が自分の鞄に存在する。
その中でも執拗な誘拐犯用に用意されたのが薬剤。
即効性のものばかりを携帯用小瓶の中に入れて、臨機応変にそれを使用する。
その中の一つを自分の防御の為ではなく、得たい者の攻撃の為に使った。
それを受けた可愛そうな獲物・・
「君と言う者をこんな風に黙らせたかった・・」
そう言いながらヒカルのセ−タ−をゆっくりと脱がす。
ウ−ル製の肌触りの良さより、彼の体温の方が僕にとって心地よかった。
それを頬に持ってきて確かめるようにする。
(君の匂いが僕を既に昂らせている・・)
そしてその下に着ていたTシャツに手をかける。
首筋がくっきりと見えるようになり、思わず僕は性急に口付けた。
白い肌に赤い鬱血が浮かぶ。
それを確かめては繰り返しそこを嬲る。
そしてTシャツを異常な力で破いた。
無残にも裂けた布は痛々しい。
その行動の後外気に晒され、体温が下がったヒカルの肌は少し揺れた。
しかし薬の効果でその事実は正確には伝わっていない。
少年にしてはまだまだ成長過程のヒカルの肉体をアキラは見惚れる。
滑滑の肌と防寒着で少し汗ばむそれが・・


「美しい獲物だよ君は・・。怖くて手が出せない位に・・」
そう言いつつも自分の欲望に塗れた手で感触を楽しむ。
ただ摩るだけではなく、時より爪でなぞりながら
赤いラインが表面に残り、アキラは次に舌を這わせる。
べっとりと嘗め回し、何もかもヒカルを取り込もうとでもするかの様に。
そして平坦な胸に唯一尖った場所にまでそれは及んだ。
「可愛らしい乳首だね。ピンク色でまだ誰にも愛撫されていない証拠だから堪らないよ。」
そして歯で噛みながらそれを弄ぶ。
こりこりとした感覚がアキラを悦ばせる。
舌と歯で嬲られた片方の突起は少し紫に変色していた。
明らかに前とは違う様子にヒカルの意識が少しだけ反応した。
「うっ・・うっ・・ん。うふっ・・ん。」
それを何だか歓喜に思えたアキラは反対の場所も愛撫する。
今度は少しキツイ形でそれを与えて彼の次の反応を待つ。
それに応えるようにヒカルは仰け反った。
しかし直ぐにアキラの体重で抵抗は防がれた。
至る所に口付け歯型が残る位噛み付かれた上半身に、アキラは一応の満足を覚える。
「たくさん僕が君を愛してあげたよ。今度は君が僕を楽しませてよ。」
そう言ってソファ−に彼を残し店内のコップで水を汲む。
しかし冬の冷たい冷水がアキラの熱までは冷まさなかった。
そして何やら錠剤を取り出し、コップと共にヒカルの元へ戻ってくる。
テ−ブルの上にドラックケ−スを置き、一錠だけアキラは自分の口に入れる。
そして水を口に含み、あろう事かヒカルの口にそれを運ぶ。
暫く口の端を水と互いの唾液で汚しながら、ヒカルがその薬を飲み込んだ。
喉仏で嚥下を確認したアキラは暫くの間、また上半身の愛撫に勤しむ。
貪る様に味わい、暫くしてヒカルが意識を取り戻した。


「うっ・・ん。!!塔矢何をしているんだ。」
瞳を見開き飛び起きたが、痺れた様に力が出ない。
ふらついてまるで麻酔でも掛かったような感じが、ヒカルを苦しめる。
ソファ−の背もたれを掴んで、上半身を起こそうとするが手がぐにゃっと腕力が無い。
がんがんと頭を劈く痛みが、思考を奪う。
頭を振り元に戻ろうと頑張るが・・
「無理だよ・・。君は睡眠薬で眠らされ解毒剤で覚醒したんだから・・」
「えっ・・何でだ。何で・・」
「君が性懲りも無く僕から逃れようとしたからだ。それに・・」

アキラは何でこんな得体も知れない心理になっているのか理解した。
大人達の無気力、同年代の成長の遅さ。
虚無を演出している曇り空。そして雨・・
まるであの日の再来だった。
アキラの中で心が砕けて散ったヒカルとの2回目の対局。
信じていたものを根底から引っ繰り返した衝撃。
そして他人を初めて自分に住ませた恐怖。
【トラウマ】そのものが誕生した時だった。

「君が憎い。そしてどうしようもなく愛おしい・・。」
「塔矢・・お前・・」
手負いの獣の悲鳴をヒカルは感じた。
そして同時にヒカルの心の傷を抉る。
アキラは正直真っ直ぐ囲碁を愛していた純粋な少年。
何者をも寄せ付けずひたすら努力をしていた。
沢山の期待を背負い前に邁進する。
孤高かもしれないがそれがアキラの夢だ。
哀れみを他人が感じる方が間違っている。
その中に入ってしまった愚かな自分。
結果的に自分が起爆剤になっていけたから良かった。
しかし俺を本当の意味で支えてくれたもう一人がいなければ夢幻だった。
その者ですら有耶無耶なままで別離した。
(これは罰なのか・・でも・・)

「もういい・・お前の好きにしていいよ。俺が憎いんだったら・・」

「違う!見縊るな進藤。僕はお前の全てを支配したいんだ。」


あくまで自尊心を捨てないアキラ。
その言葉を真っ向からヒカルは受け止めた。
「だったら俺を支配して見せろ。出来るものならやってみろ。」
挑発しながらアキラの首に震えながら腕を回す。
ヒカルとてこの先無事ではすまない自分を予想していた。
しかし誰かが今のアキラを受け止めてやらなければいけない。
そしてそれが出来るのは自分だけ・・
選択の余地は無かった。
(不器用なお前を見届けてやる・・。だから・・)
ヒカルの瞳に一筋の涙が・・
それを見たアキラは舌でそれを舐める。
そしてヒカルの口に息が詰まる位のキスをした。
角度を変えてヒカルの唾液・歯並び・舌を確かめるように・・
本当は拒絶したいヒカルを逃がさないように、彼の頭を片手で支えながら。
「うっ・・ふっ・・うん。ふう・・」
昂ぶってはいないが息苦しいさを訴えるヒカル。
まだ満足していない彼の態度にアキラは更に雄を試される。
女性ならム−ドで乗り切れるが、同性同士では叶わない。
ましてやヒカルは処女・・
未知なる世界への恐怖が付き纏う。
そんな彼を普通のやり方では通用しない。
それを考慮しアキラは辛抱強く何所がヒカルの感じるポイントか探る。
そして舌をゆっくり絡めてやると反応が柔らかい事を学んだ。

「進藤・・これが気持ちいいんだ。僕は不感症だったらどうしようかと思った。」
「ば・・か。それなら囲碁の時間・・役にたたない・・。」
「空気を読むのも勉強だからね。」
そして剥き出しの上半身を意識のある彼を目の前に愛撫する。
先程の爪跡がかなり残っていたのが痛々しい限りだが・・
「それじゃ此処も探らせて貰おう。」
少しずつ自我が蘇り、楽しむ余裕が出てきたアキラ。
愛おしむ様にヒカルを堪能する。
そして程よくヒカルが突起が感じやすい場所だと勘付く。
よがり快楽に染まろうとした彼をアキラは制した。
「僕は君の下半身に興味がある。まだ花開く前の君の場所に・・」
ジ−ンスのパンツに隠れたヒカルの生足。
それを視姦しながらアキラは呟く。
注がれる視線が下心を含むものとして感じたヒカルは
「嫌だ。此処だけは絶対に・・」
そして後ずさるが
「そこが一番美味しい場所なんだ。我が儘は聞かない。」
抵抗をみせるヒカルにきっぱりと言い切った。
細身のヒカルが腰に巻いているベルトに手を掛ける。
「嫌だって・・お願いだから・・」
懇願するヒカルを諭すように
「大丈夫。直ぐに気持ち良くなるよ・・だから・・」
するすると抜き去りフックを外し始める。
かちゃかちゃと音がしチャックを下ろすと
「想像以上に綺麗な足だ。最近はロングパンツしか履かないから余計にそう感じる。」
殆ど自分と大差ないヒカルの足。
しかし理屈ではなく、貪欲な感情が渦を巻く。


沈下されていた獣が別の要因で目覚める。
征服欲より純粋な欲望・・

そう快楽の果ての高みへ・・