『神曲』第十楽章



「俺が忘れさせてやる。俺はお前が欲しい…。進藤…」


ヒカルにとって緒方は、自分の事情を学園で知って何でも共有出来る相手だった。
誰もがヒカルを同情や、どこか見縊ったような曖昧な態度であった中、これほど自分に踏み込み、 対等な人として接してくれた他人は居ない。
だからこそ緒方の下心が理解出来ない。分かる訳がない。
からっぽなこんな手に入れる価値もない自身に、どうして執着出来るのか…


「緒方先生…俺はアキラを…。」
「お前は真実を知った上で、あいつとこんな事が出来るのか。」
そう言いながらヒカルの肩を食い込む位に攫み、ソファーに押し倒し緒方はヒカルの制服の上着(ブレザー)を取り除く。
「なっ何…を。」
ヒカルに覆いかぶさりもっと自分に引き寄せるように、ヒカルの柔らかい黄色が混じるその髪を攫み上向きにさせる。
そして視界を奪いさっきの突然の口付より、更に濃厚なまるで奪うようなキスを…
息も絶え絶えにするヒカルを感じながら、蛇のようにうねる舌が歯列を割りヒカルの口腔を甚振る。
「ううっん…ううっん…ふくぅん…やっやめ…!あっ…。」
間髪をいれずにブラウスの首元に、そしてどこか艶めかしい項に舌を這わせる。
唾液がひんやりと冷たい。
緒方は自分のネクタイをヒカルの両腕に括りつけて、カッターシャツをはだけさせ、何か獣じみた表情を醸し出す。
流石にこれは冗談でなく、緒方が自分を抱こうとしていると感じた。
頭を振ってどうにか逃れようと抵抗を試みる。


「どうしたんだよ…冗談止めてよ…。」
訳が分からないそれに、哀しくなってきたヒカルは緒方を必死に言葉で制してみるが、 その拒絶が逆に緒方の被虐精神を煽り、今度はヒカルの腰に手を伸ばし、ベルトのバックルを外しに掛った。
がちゃがちゃと煩い音が鳴るが、ヒカルは自由にならない両手に力を込めて、それだけは絶対に阻止しようと懸命にもがくが、 大人の緒方に敵わず、あっけなくベルトが引き抜かれる。
「ああ…っ。」
そしてズボンを脱がされ外気に晒されたヒカルの下半身は露わになり、それを見た緒方は自分の雄が興奮している事に自覚する。
「お前…華奢な肢体だな…色も白いし…。」


太ももを弄りながら、うっとりとそう呟く。
行き来する指先は、ヒカルを委縮させる。
視姦されているようで心地悪いヒカルを余所に、あろうことかヒカルの股間に顔を埋め、 トランクスに手を入れてそれを下へ脱がし、露わになったヒカルの砦へと愛撫を仕掛ける。
そして握ったヒカルのペニスを舌先で弄びはじめた。


「…やだ…それだけは…」
すでに緒方によって愛撫され、気持とは裏腹に滴り落ちる精液。
死んでしまいたいくらいに羞恥心が込み上げ、その瞳は涙に曇る。
ヒカルを味わうように、キャンディーのように頬張るように、緒方は口に含みぴちゃぴちゃと卑猥な音をたてる。
片手でペニスを…そしてあいたもう片方ではヒカルの乳首を指で転がすように愛撫をして、ヒカルの思考を奪う。
「あぁ…うぅ…ん。ん!!」
もうヒカルの口から零れるのは、喘ぎ声としか言い表せない。
必死にそれを自分の両手で口を塞ぎ押さえて声を殺す。
助けを求め悲鳴をあげても、防音に優れたここでは無意味だ。
アキラしか許していない身体を、緒方に奪われる自分に嘆き震えながら耐えていた。


それを知りつつも、緒方もすでに重量を増したヒカルへの思いの証を、ヒカルに受け入れて貰うのは止める事は出来ない。
どうしてヒカルの精神の弱みに付け込む真似を自分は、こうも簡単にやってしまっているのだろう?
まだ引き返してやれるのでは?…と一瞬頭を過ったが、目の前のヒカルは自分に恋愛感情をもっていない。
こんな仕打ちを受けながらも、どこかでアキラを求め苦悩の恋を選ぶ。
どんなにそれは愚かだと言ったところで、ヒカルは誰よりもアキラの幸せだけを祈る様に考えあぐねる。


(お前の意識を俺に向けさせ、アキラを追いやるには…)
本当は優しくそこを柔らかくして挿入してやるのが一番だと分かっている。
ゆっくり慣らして、嫌でも生理現象の様な昂りを感じ、自分に次第に溺れていくような、 そんなヒカルを想像しただけでも、どんなに素敵だろうかと…
しかし…
確信はあるアキラを受け入れただろうそこを、酷く犯し自分の印を残してやりたい気持ちに駆られた。
それがどんなにかヒカルに心身共に負担か知っているが、 アキラとの性行為を凌駕するほどに、ヒカルの忘れられない記憶になればいいと、 準備もしていないさきに、ヒカルの腰に楔を打ちつけた。


「ひぃぃ…いっ痛い…やぁ…やめ…痛い!!あぁぁぁ…。」
仰け反り青ざめた表情で、緒方の太く猛々しいそれの侵入を泣きながら受け入れさせられる。
狭くきついそこに食いちぎるかにように、雄々しいいちもつが奥へ奥へと侵入してゆく。
ヒカルは暴れてその痛みから逃れようとするが、緒方はものともせず逆に深くヒカルに思い知らすように、 どん!!と自分の迸る情熱を打ちつけた。
微かな隙間から溢れ零れる精液は、挿入時に傷ついたのか赤い鮮血も混じって滴り落ちていた。
どろっとしたそれを腰にリアルに感じ、だんだん抵抗空しくやがてヒカルは人形のように意識を手放した。


まるで自分の身の上で起きている現実から、避難するように…
「進藤…塔矢とは兄弟ではもう繋がれないな。どんなに愛し合っても…。だから俺が愛してやる。隅々まで…」
(何を言っているのかもう分からない…これは罰なの…)


ヒカルはその放課後…緒方が飽くまで貫かれ抱かれ続けた。