『神曲』第三楽章



そして自主学習部屋で、施錠も完璧な部屋で二人の別の時間が訪れる。


初なヒカルの反応を知り、アキラは嬉しさを隠せなかった。
誰も知らないヒカルをどんな形でも手に入れられると思うと・・
そしてヒカルの頬に手を滑らせ、その感触を楽しむ。
前のキスとは比較にならない雰囲気が、二人を怪しく包み込む。
重なる夕刻の影・・そしてその吐息。

リサイタル用に着付けたヒカルとアキラは、それを己の昂ぶりにより着崩れる。
赤いリボンを解いて、ヒカルの項に唇を宛がう。
「う・・ん。くすぐったいよ。アキラ・・」
こそばゆいと感じたヒカルは瞳を垂れさせる。
嫌悪感が無いと安堵したアキラは、ヒカルのボタンを丁寧に外し始めた。
黒いブレザ−が折り畳まれて、ピアノの上に置かれる。
でも肌蹴たままのカッタ−シャツが、アキラを暴君に変えた。


そしてアキラはヒカルに命令して・・
「ピアノに手を付いて・・そして細部を僕に見せて確かめさせて・・」
突然の要求にヒカルはたじろいだが、アキラの言う通りに行動をした。
自らズボンを脱げと視線は語り、ヒカルはベルトを外し突き出すように下半身を見せた。
成長途中のまだ男が形成されていない下肢。
アキラは覗き込む様に下にしゃがんで、ヒカルの桃色の尻を見詰める。
得も言われぬ興奮がアキラを襲った。
こんな事が出来る自分を誇らしげに感じて、ヒカルの白い肌を視姦する。
その羞恥心で揺れるそれをアキラは、指で制止させる。


「ひぃ・・痛い・・どうしてアキラ・・」
先程までの甘い安心する触れ合いではなく、明らかにヒカルを嬲るように仕掛けている。
それを肌で感じたヒカルは、くぐもった声を零れさせる。
その喘ぎにも似た声が、アキラの耳まで悦ばせた。
次第に抜き差しを繰り返して、臀部を解していった。
最初は異物に困惑していた其処も、違う意味で受け止め始めていた。
揺れる肛門に連鎖反応を起こす一物。
悲しいかな男の証は素直に、興奮を伝える。
ヒカルの意志とは別に身体は徐々に未知なる領域に誘われていた。
先っぽから先走りの汁が零れ、リノリウムの床を汚してヒカルはその恥ずかしさでどうしようもなかった。
しかしそれだけではなく、アキラは空いていた片手でヒカルのそれを扱きわざと刺激を与える。
唯でさえ自分では止められない熱い飛沫を、アキラに握られている現実。
ヒカルの瞳から訳が分からない涙が零れた。
それを知っていてもアキラは後ろと前の愛撫を止めない。
更には前から出たヒカルのそれを指に滴らせ、あろう事かアキラは綺麗な口に運び舐める。


美味しそうにぴちゃぴちゃと味わい、ヒカルを昂ぶらせる。
「汚いよ・・なんで・・こんな・・」
「君の全てが欲しい。それに美味しいよ。これが君の味だと思うと・・」
苦くて決して清潔なもので無いそれを、アキラは本気で取り込んでいた。
でも正直アキラはこれで満足していた訳ではなかった。
(君に僕を受け入れてもらう)
何も高揚しているのはヒカルだけではない。
アキラも同様に自分の中心が熱を帯びている事に気付いていた。
ズボンのチャックを下ろし、その蛇のようなモノを取り出す。
そして自分の欲望をヒカルに注ぐよう自分の一物をヒカルに宛がう。


「な・・何を・・。」
「繋がるのさ。僕と君は・・。より素直になるため・・」
そして一気にヒカルの入り口に侵入した。
串刺し状態のヒカルはその指とは比べ物にならない質量に戦いた。
「ひぃぃ・・ああああ・・うっ・・あ・・・」
アキラは椅子に腰掛けながらヒカルを激しく貫く。
汗ばみ始めたヒカルはわなないた。
口の端から筋上に零れる蜜。
色気を増すその醜態にアキラは枷を外した。
激しい交わりの為、ヒカルはしきりに二度とない楽譜をピアノで奏でた。
コ−ドも何調もない、喘ぎ声にも似た不安定な音色を・・
防音が施された此処にそれを聞いているのは互いだけだった。


突き上げられヒカルとアキラはほぼ同時に絶頂を迎えた。
汗と涙と行為の果てのもので乱れ汚れたヒカルを、アキラは満たされた思いで見ていた。
ヒカルを自分の調律に合わせた満足感が、誰も知らないアキラの微笑を生んだ。
そして夜に差し掛かり、アキラはヒカルをようやく解放した。
服を着る力すらないのか肩で息をしているヒカル。
殆ど着崩れをしていないアキラはそれを見かね、行為の後始末を速やかにした。
窓から満月が照らされ、証明をつけなかった空間を鮮やかにする。
「幸せの時間ってあっという間と言うのは本当らしい。」
もっと本当はヒカルを独占したい。
ヒカルがアキラ以外誰も心に住む事が無いように・・
こんなにどうしてヒカルに惹かれているのか分からない。
奏者としてなのか・・それとも・・
ふと赤黒いカ−テンを横に引いた。
そして空気を入れ替える為開放した窓。その窓枠にアキラは佇み・・


「満月か・・【月光】を弾きたくなったな・・」
校庭を照らす夜の輝き。
今まで孤独を抱えていたアキラに、ヒカルは一筋の光となって包み込む。
過去誰の為にも弾いた事のないピアノを、生まれて初めて弾いて聞かせる。
椅子の上で疲れ果てたヒカルを癒すように・・
怪しさを増したアキラだけの音色を・・
同じ位不器用な愛情に溢れた音色を・・


「お・・俺・・こんなに求められたのは初めてだ。」
「えっ・・何?」
「正確には俺自身を・・。」
ヒカルはアキラを心底好きだと分かった。
多分根本的に似ている二人は、塞き止めていた感情を露に出来る相手を求めていた。
それが偶然にも廻り合った。
「このまま時が止まればいいな。」
「ああ・・僕もそう思うよ。でも僕は君と歩きたい。だから一緒に・・」
「うん。・・でさぁ・・此処じゃ羞恥心が勝っちまうから、別の所でまた・・」
「いいよ。でも臨場感が此処にはあるから、それに思い存分ヒカルに興奮して貰いたいし・・」
「悪趣味!!これじゃ俺の身体もたないよ〜」

笑い合い微笑み交わす。
不思議な共鳴がこれからの二人を支える。
まだ走り始めたばかりの恋人達を・・