『神曲―特別楽章―』



ヒカルとアキラが暮らすようになってから数年。その日常は…


アキラが仕事部屋の方に籠ると、邪魔をしたらいけないとヒカルは気を遣い会話すら出来ない。
ようやくアキラが予定を空けられても、ヒカルは地方公演でスケジュールが埋まり、その間は連絡もなかなか繋がらない。
相変わらず音楽に塗れた生活をおくって、落ち着いてデートすら出来ないでいた。
「アキラ…今日は?」「取材予定があるんだ。」
「ヒカル明日はどうだい?。」「みんなと譜面合わせしなければならないんだ。」
こんなことが日常茶飯事で、すれ違いもいいところだった。


「俺達本当に恋人同士なのかな…。お前の浮気は心配していないけど、正直世間の恋人ってこんなのかなって。」
普段から積っている不安をアキラに漏らして、ダブルベッドに寝転がった。
枕を抱き抱えて、アキラを見上げると
「ごめん。寂しがらせて。でも僕も生殺しなんだよ。本当は君と素肌で朝を迎えたいのだから…。」
いくら清廉潔白がイメージだからといっても、アキラも健康的な男。
まだまだ枯れてもいないし、目の前に愛している者がいたらずっと独占したい。
日々色気を 増しているヒカルをどれだけ心の中で抱いた事か。
しかし緒方との一件で受けたSEX恐怖症があるため、アキラもはからずとも事情を知ったからには強引には迫れない。
「ねぇ…覚えてる?アキラのピアノに惹かれて俺は扉を未来を開けたんだ。
だからもしかしたら俺の一番幸せな時って、アキラの仕事でもなく他人のためでもなく、
アキラが自分のために弾いているピアノを聞いている時だと思う。だからアキラのピアノをバックに俺に触れてくれないか。」


ヒカルとはじめて出会い、結ばれたあの時間を再現しようと、ヒカルはアキラに提案する。
そのいじらしさに思わずすぐさま押し倒しそうになったが、ふと脳裏に浮かんだ曲があった。
アキラがヒカルが留学した時、憂いを込めて作曲した曲をMDに入れていたのを思い出した。
それをプレイしてヒカルのガウンに手を掛ける。
風呂上がりで少し潤いが増して石鹸の良い香りがした。
それをアキラの体液や精液で塗れ、文字が示すように汚していく事の何とも甘美な事だろう。
以前より安心したのか、ヒカルは成すがままに抵抗もなく露わにされてゆく。


「ずっとこの時を待っていた。」
ヒカルが本気で拒絶すれば、いつでもやめる気持ちでいたが、少なくとも抵抗はしてこない。
そっと顔を近づけて顎を持ち上げ、唇に口付をする。これに関してはスキンシップの範疇でいつもしていた。
ヒカルの口腔に舌を絡ませてよく味わって、互いの呼吸を奪うものだった。
「ふぅぅん…はぁ…ふぅぅ…ん。」
どちらとも分からない唾液が混じり合い、口元を鈍く光らせて口の端から零れて伝う。
息も絶え絶えだが、ほんのり頬を染めるヒカルに満足したのか、次は首筋にキスをしながら舌を這わせる。
初めは労わる様に…しかし次第に鬱血が出来そうなくらい激しく唇を押しつけるような愛撫を。


その渦中手は弄る様にヒカルの肌を確かめ、ささやかな突起を指で摘む。
こりこりとしばらく誰にも触れられていないためか、固くなっているそれを解すようにいじっていた。
瞳を伏せてぶるっと震えて感じている事がわかる。
それをアキラの舌先が捉えて舐めまわし、吸いつくように口に含んで歯で噛みかたちを確かめる。
「あぁぁ…うぅ…ん。」
興奮しているのかヒカルが仰け反りはじめて、喘ぎ声を部屋に響かせていた。
そんな状態のヒカルに更に官能的な刺激を与えるために、アキラの手は徐々に下半身に下がって
「まだまだ序盤だよ。ヒカル…。こんなものじゃ満足しないだろ。」
そう言い終わらない先に、ヒカルのペニスを握って指の平で先っぽを弄んでいた。
処女を奪ったあの時とは時が経たのか、前よりもそれは成長していたが、
一度も女性と経験する事もなく、これからも絶対アキラが一生それを許す訳がない。
ヒカルの才覚はアキラと生きるためで、心はずっとアキラのもので、もちろんこの身体はアキラの所有するものだ。
嘗て緒方と不本意で関係したヒカルだが、誰にももう二度とヒカルを抱かせない。奪わせない。
あんなことが再び起これば、間違いなくヒカルをこの部屋から一歩も出さず、閉じ込めて他人との接触も許さず、
アキラだけしか其処にはいない世界をヒカルに与えてしまうだろう。
そんな独占欲と言うより支配欲に駆られ…


「ヒカルも僕に触れて。これが君を思う隠しきれない僕自身だ。」
禁欲生活が長すぎて、願望が生み出した夢かそれとも現かわからない。
どちらでもヒカルのその嬌声と淫らな肢体に重量が増したそれをヒカルの手に握らせる。
最初は躊躇いがちだったが、アキラの雄の証をその手で確かめた。
「あっ…こんなに大きい…。もしかしてアキラも感じているの?」
「当然だよ。白状すると毎日君の裸を想像してマスターベージョンしていた。
どんなに君が入浴していた時、背後から侵入してしまいそうになったのか。」
「ずっと我慢させていたんだ。ごめん。」
「君のはじめてを貰って10年近く…もういいよな?僕を受け入れてくれても…。」
アキラがヒカルを思って作曲したそれのタイトルは【初恋】
また再会する事を願っての希望を込めた曲。
MDから流れるその曲はあの出会いの時の奇跡を奏でて、ヒカルは涙が溢れた。
ヒカルもアキラも互いが初恋の相手で、障害も多かったけど今は心揺らされずこうして寄り添っている。
アキラの気持ちに心身ともに受け入れる、そんなずっと夢見た時がやっと…
もう緒方の残した恐怖は消え失せている。今度こそアキラとの満たされた幸せで包まれたい。


「うん。アキラ。いいよ。俺の中にきて…。」
了承した言葉をアキラは聞いて、ヒカルのアナルに指をゆっくり差し込む。
「あぁ…いや…動かさないで…。」
異物が入り込み思わずそう伝えるヒカルに
「その割に君のここは僕の指に絡みついて離れないよ。それにしっかり解さないと後で君が苦しむんだよ。」
蕾の奥へ奥へと動かしながら、ピアノ奏者のしなやかな指が抜き差しして入口を拡げる。
狭くきついそこが徐々にひくひくと反応してゆく。
それを感じてアキラの頭がヒカルの股間に頭を埋めて更なる愛撫をしかける。
奇麗な口があろうことかヒカルのペニスを銜えた。


「アキラ…汚いよ。駄目だよ。…やめて。」
「何を言っているんだ。こんなに素敵な味はないのに。」
迷わずくちゅくちゅと卑猥な音をたてながら、その舌が熱い口腔がヒカルを徐々に快楽へ誘う。
「ふぅ…ん。あぁ…うっ…あぁ…。」
次第に激しくなる愛撫に、ヒカルの肌が汗ばみ瞳は閉じられ必死に下半身の熱に耐えていた。
流れるサウンドに不似合いな音と声に、羞恥心もあったのだが声を殺す事は出来ない。
上気してどんどん気持ちとは裏腹に、アキラが与える快感に溺れてゆく。
(我慢しないとアキラの口に吐き出してしまう…でも…もう…。)
ヒカルが射精を耐えて唇を噛み締めている様子を見ながら
(もうそろそろかな…僕も限界だ。)
一端ペニスの愛撫をやめて、ヒカルの脚を肩に担ぎ、指のかわりに自身の雄をヒカルの蕾に押し付けた。
いきなり重量感のあるそれが、ヒカルの中に侵入してくる。
「あぁぁ…ムリ…うぅん…あっっ…ああ…。」
「無理じゃないだろう?昔ここは僕を受け入れた場所だ。」
躊躇いもせずに腰を打ちつけて、最奥へとアキラの楔は蠢く。
慣らした甲斐もあって狭くきついのは変わらないが、すっぽりとアキラをヒカルの蕾は飲み込んだ。


(本当にアキラが俺の中に…。)
そう充実したヒカルの想い。
アキラの待ち焦がれたヒカルへの性欲。
それらが重なり合いあつい情熱となり、一緒に絶頂をむかえ互いを濡らした。
最後に身体が覚えている手荒に扱われた緒方との性交ではなく、労わるようなアキラとの交情。
互いが満たされるこの幸福。兄弟だとか…男同士とかそんなモラルなんて無意味な瞬間。
そのまま朝まで繋がったまま抱きあって眠った。


「アキラ以上に俺を幸せにしてくれる者はいない。ずっと一緒に生きて傍に居たい。」
「それは僕の台詞だ。これはずっと考えていた事。だから本当に我儘かもしれないけど、
そういった意味で君に兄弟といった事でなく、僕と夫婦と言った意味で【塔矢ヒカル】になって欲しい。」
死んだ両親を悼んで踏み切れなかった養子の話。
アキラとの未来のために、今一度真剣に考えてみようと、ヒカルもアキラに


「考えてみるよ。でも行洋さんと明子さん喜ぶかな?今更…。」
「絶対感激する。僕が保証する。寧ろ最近では実の息子の僕よりも、ヒカル目当てで電話や訪問することばかりだし…。」
何時まで経っても、ヒカルが【行洋お父さん】【明子お母さん】って呼んでくれないのを不満に思っていたと、 アキラに漏らしていたとヒカルに伝えた。
「分かったよ。もし決心したらちゃんとそう呼ぶようにするよ(笑)でも間違ってもヒカルお兄さんは無しだから。」
「ああ。僕の中では花嫁だからね。」


それから2週間後…ヒカルは塔矢家と正式に家族になり、【塔矢ヒカル】と名乗る事に。
そのニュースはマスコミにも知れ渡り、二人はそれも含めて幸せでちょっと忙しい日常を送っていく。



ようやく『神曲』は完結です。
私が今まで書いてきたアキヒカの小説の中で、多分この二人がいちばん素直に愛し合っていました。
もっと出したかった者も いたのですが、まとまらないのでこれが限界です(笑)
ここまで読んでくれてありがとうございました。