『プレリュード〜出会いの記念日〜』(『神曲』―番外編―)



今日は12月14日。

アキラの誕生日にヒカルからの提案で、両親の居る塔矢家で泊まりで過ごす事となった。
初めヒカルは二人でゆっくりと誕生日を祝おうとしたが、
今年藤原家で一日遅れのヒカルの誕生日会をしてくれた事が嬉しく、
アキラも行洋や明子とは最近忙しくご無沙汰で、
ヒカルも塔矢の二人に逢いたくなっていた。
アキラを育て慈しんでいた優しい場所。
ヒカルにとってはもう一つの家族であり、両親と言える。


学生時代にアキラは進藤ヒカルへの初恋を経験し、ヒカルもそれに応えた。
想いが通じ合った矢先に、突如別れを告げたヒカルとの空白の数年。
その当時は異母兄弟とは知らず、意味が分からず混乱していた。

しかし明子の実家への帰省の促しのその甲斐あってアキラは、
必然か?偶然か?ヒカルとの再会を果たせた。
大抵の事は家の大黒柱の塔矢行洋が取り仕切るが、
一人息子のアキラの件に関しては、
母親の明子が優先的に意見が出来て、アキラ本人も従う。

もしその時、塔矢家に互いが訪れていなければ、現実は留まったままだった。
それだけ明子はふたりにとって、計り知れない恩があった。


広い家屋の門扉で、二人は手荷物を持ちながら、呼び鈴を押した。
本当は合鍵はあったのだが、何故か甘えてみたくなったのかもしれない。
「久しぶりね。二人とも。」
「お母さん。なかなかこんな時でなければ会いに来れなくてごめんね。」
アキラは明子にずっと心配をかけ続けていたのは自覚している。
確かにいろいろと環境が変わり、余裕がなかったのもある。
愛するヒカルとの同居や、ヒカルの生家である進藤家への引っ越し。
しかしヒカルとの新たな生活もそろそろ馴染んでいた。


「ヒカルさん。少し手伝ってくださるかしら?」
「はい。俺に出来る事なら。」
アキラに二人分の荷物の整理を頼み、ヒカルは明子について行った。
ここはいつも綺麗に片付けられ、来客がいつ来ても応対出来るようになっていた。
台所の手前の和室は襖が半分空いていたので、
「ヒカルさん。この柱の文字覚えていない?」
「えっ?…」

床の間の前にある、床と天井を支える柱。
徐に明子はこの家唯一の和室の柱を指差した。
そっとヒカルを誘うように手招きして、
「まぁこれだけはずっと私の親友との思い出のひとつと、
ヒカルさんとアキラさんのはじめてでもあるのよ。」
その柱には、小さくペンで“アキラ5歳108センチ”
そして“ヒカル5歳110センチ”と書かれていた。


「以前…貴方と美津江お母さんはこの家に遊びに来ていたのよ。
その時に既にね。感じていたの。行洋さんと貴方との関係。
でもショックではなかった。私たち四人はそれほど確固たるものだったの。」
これだけは消せないと、わざと残した記録。
お互い子育てに追われていて、中々会えなかった時、
丁度アキラの5歳の誕生日に此処に来ていたらしい。
正夫は遅れて参加してアキラの誕生日は口実で、
四人の同窓会みたいな空間だった。


二人の子供達は部屋の片隅で遊んでいた。
既に小さな子供用のピアノで音楽を習っていたアキラ。
ヒカルは彼が自慢げに奏でるその音に深く興味を示していたと…
「俺…だからアキラの音に誘われて、此処まで来たのかもしれません。
記憶では覚えてはいないけど、どこかこの絶対音感が間違わず導いてくれたのかも…。」
やはりアキラの誕生日は何か特別な日だった。
手を伸ばし柱を摩りながら、ヒカルは嬉しそうに微笑んでいた。
「ありがとうね。アキラを見つけてくれて。あの子本当に幸せだと思うわ。」
もしかしてアキラにとっては、ヒカルの存在があの日最高の贈りものだったのかもしれない。

親友として…異母兄として…そして恋人としてアキラとずっと寄り添える者。
「俺、いつもアキラを尊敬しているんです。
アキラは本当は一人でも目標に向かって頑張れるんです。
でも優しいから立ち止まって俺を顧みてくれるんです。どんな時でも…。
だからあいつがうまれてきてくれて、俺と出会わせてくれて、
本当に感謝しているんです。」


アキラ本人を目の前には言えない事を、
同じ位いやそれ以上にアキラを大切に思っている明子に素直に言えた。
「明子お母さん。俺…アキラと一緒に頑張るから見守って下さい。」
その言葉を聞くなり、明子はヒカルを抱き寄せ頷きながら
「貴方たちは私たちの宝よ。お兄さんとしてあの子をよろしくね。」


そう言ってヒカルと一緒に、アキラの手作りでのバースディケーキの仕上げにかかった。







かなりぎりぎり参加です。
まだ実は書ききれていない部分もあり、
のちに続きを書くかもです。
何はともあれ、遅れましたが


アキラ君…誕生日 『おめでとう』









サイト名 塔矢アキラ誕生祭14様
主催:TADA様
ヒカル至上主義ならもちろん、
ヒカルの旦那様(笑)の塔矢アキラも応援するっきゃない。
当サイトは参加表明☆
2015年12月14日